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4 リニューアルの手順
展示改装の大まかな流れは、別表「展示改装の年次計画」の通りであるが、これに従って少し詳細に説明してみる。
(1)常設展示検討委員会の設置
平成4年に黎明館の常設展示のあり方について広く意見を聞くために委員会が設置され、展示内容および展示構成に関すること、新しい展示技術の導入および解説の方法に関すること、体験学習室、ゆとりのコーナーの新設に関すること等を調査、研究することになった。メンバーは、黎明館の専門委員、学識経験者、利用者代表、行政関係者等20名であった。県としては、この委員会は3年間で改装についての意見をまとめてほしい旨を希望し、これに添った予定を立てていた。県にとって、委員会を設置するということは、展示改装を実施する前提に立ったことであり、予算当局に委員会設置を要求する段階では多くの資料を使って説明、説得した。この委員会は、展示替え先例館の調査、展示見直し基本計画の作成、展示シナリオ検討、企画書の選定、基本・実施設計への意見聴取等、計9回開催された。
(2)企画書の作成委託
平成6年になると、前述の委員会で検討され意見の集約をみた「展示見直し基本計画」や「展示シナリオ」をもとに、1.展示改装後のイメージを図で表現する、2.展示改装に対するアイディアの募集、3.展示設計委託先選定を目的とした企画書作成を委託することになった。まず、最初に問題となるのが、どのような会社を選定し、企画書の作成を委託するかである。当館の場合、日本博物館協会の会員であり、同協会発行の「博物館研究」に積極的に広告を出している会社を選び、それらの会社に経歴書等の提出を依頼し、まず7社を一次選定した。その後、類似施設の実績(県内施設、県立級)、資本金、社員数、九州支社の有無、一級建築士事務所かどうか、不祥事はなかったか等を調査し、最終的に4社を二次選定した。次に企画書作成の仕様書を作り、この4社に対し説明会を持った。この企画書作成は、提出された企画書の内容については、鹿児島県が利用することができるという前提で有料で行ったため、予算の都合もあり、見積書を要求した結果、1社が辞退し、結果として3社に企画書作成を委託することになった。委託期間は約3週間であったが、各社からすばらしい内容を提案していただいた。企画書の作成条件としては、建築物は改造しない、展示面積は約3,700m2である、あるいは改装費は10億円程度を想定するなどを示していたが、これらについては県内部で十分検討し、特に改装費については財政当局とつめていた。しかし、この改装費の提示については、いろいろな問題が生じた。展示設計を委託する会社を選定するということもあり、各社ともアイディアいっぱいの企画書が出ており、そのすべてが想定改装費の範囲でできると判断していたが、実際はそうでないというような問題が生じ、予算要求の段階での修正が大変であった。
最終的には提案された企画書の選定作業が問題になってくるが、これに対し当館では最初に館の学芸担当職員(8名)が個々に評価する作業を行った。評価は、館全体の平面計画、展示場の平面計画、展示場の動線計画、展示技法、導入部の企画、展示ホール、県勢コーナー、郷土情報コーナー、体験学習コーナー、望岳堂、楽しめる・親しめるコーナーに対する企画、これらに合わせた業務実施体制、実績、積算内容、その他の提案等を加味して評価作業を行った。これらの作業と併せて、前述の常設展示検討委員会への企画書説明及び意見聴取を行い、決裁のうえ最優秀案を丹青社と決定し、各社へ連絡した。企画書案を評価するため各社の企画書に入念に目を通したわけであるが、結論的にいえば丹青社の案は第一世代展示の設計・施工をしただけに、当館の展示の良い所、悪い所を良く理解していたし、建物の様子も良く分かって企画しているように思われた。常設展示検討委員会では、1.丹青社案が細かい点まで配慮した案である、2.屋外展示との連絡に既存の郷土門を使用している、3.動線計画が観覧時間を配慮したいくつかのコースを設定している、4.展示ホールの外にある池に小さな滝を作る案等が評価された。この結果、丹青社案に他社の良い点も取り入れながら設計に入ることになったが、この展示改装が、まったく別の黎明館の開館というようなことになっては困る、建物も展示も設立当初の主旨を生かすように留意すべきであり、また企画書案の通り設計した場合には展示シナリオの資料が全部展示できるかどうか疑問があるので、この点も注意して設計を行うように注文があった。
(3)改装基本設計
企画書の選定作業を終えた平成6年10月には、常設展示改装基本設計に入ったが、これは企画書選定の結果から丹青社との随意契約であった。設計の業務内容は大きく3項目に分けられ、基本設計説明書の作成、基本設計図の作成、工事費の概算書作成である。説明書の作成内容は、展示改装の基本方針、展示シナリオの詳細検討、展示の構成、動線計画、案内・解説計画、色彩・サイン・グラフィック計画、照明・視線計画等である。設計図の内容は、配置図、全体平面図、ゾーニング図、展示室平面図、動線図、鳥瞰図、展示コーナー別展開図、コーナースケッチ図であり、説明用のパネル作成も依頼した。また、概算書作成は工事費用の積算を行い、契約の期間は約5か月であった。この間、展示シナリオをもとに学芸担当職員は、それぞれの部門ごとにあるいは全体的に打合せ会を持ち、館側の考え方を設計者に説明して納得のいく展示になるような図面の作成に向かって努力した。また、設計の途中段階では、展示改装委員会や県の上層部への説明を行い、いろいろな意見を設計に取り込むという作業の繰り返しであったが、3月末には完了した。
(4)改装実施設計
実施設計は、基本設計に基づいて工事施工及び工事費内訳明細書作成に必要な情報を提供するもので、基本設計を行った者が引続き実施する方が、展示改装の内容を熟知しノウハウの蓄積が多いので低コストで設計が可能である等の理由から丹青社に随意契約で委託した。設計の委託業務の内容は、基本設計と同じように3項目あり、実施設計説明書の作成、実施設計図の作成、展示工事費の積算書作成であった。説明書の作成内容は、展示シナリオの作成、展示解説・演出詳細計画、映像資料のシノプシス作成等である。設計図の作成は、展示空間・意匠の詳細計画、平面図作成、展開図作成、造作詳細図作成、グラフィック図作成、模型・造形図作成、AV・情報システム図作成、展示資料取付パーツ図作成、電気・照明図作成、特記仕様書作成等である。また、展示工事費の積算書は詳細なものを作成することにし、館側の査定に耐える内容を要求した。実施設計の委託期間は、平成7年4月から9月までの約5か月間で、リニューアルオープンを平成8年の秋と予定していたこともあり、工事費をこの年の補正予算で要求する必要が生じ、設計は時間におわれ、特に工事費積算については無理をお願いした。実施設計に当たっては、各部門担当者の打合せを行いながら全体の調整をはかり、特にこの段階では予算を考慮した金額的な調整も必要であった。何かを増やすとどこかを減らすというようなことになるが、担当者の了解を得、かつ責任者にも説明するという作業に思いがけず多くの時間を要した。この頃は、財政課を始めとする関係者との予算折衝、上層部への説明と一番多忙な時期であったように思う。また、常設展示検討委員会に対しても、設計の内容を分かりやすくしたパネルを作成し、OHP等を利用した説明を行い、内容について了承を得ながら作業を進めた。
基本・実施設計を進めるうえで、慎重に幾度も検討したものがある。それは企画書作成の段階あるいは改装の構想段階からも問題になっていた、第一世代展示の入口付近にあった亜熱帯植物相と鍾乳洞の両大型ジオラマの取り扱いである。当初は、全てをリニューアルするからには撤去した方がよいという意見が強かったが、学芸担当職員は、これらのジオラマは日本有数の規模を誇るものであることや、考え方によっては新しい展示の中で十分に活用できることを強調し、ぜひ残したいということで設計に生かすことになった。これは、結果としては大成功であったように思う。鍾乳洞は、若干小さくなったが、新展示の動線上にうまく生かされ、以前よりも立派に活用されているように思う。
(5)改装の委託発注
改装工事について第一に問題になったのは、予算をどのような費目で計上するかであった。展示改装を改装工事ということで実施すると、これは県の建築課からの発注ということになるため、事前に改装の内容を説明し相談したところ、この工事は建築でいうと内装工事にあたり、また内容が通例のものと異なり監理面で対応できないとのことであった。また、第一世代の展示工事の例から考えても、展示の場合は全てが設計図面上に表現
されているわけではなく、あるいは表現できないことも多いと思われ、改装工事ということで施工すると、図面を変更する度に事務手続きをとる必要があると同時に、実際の施工の折には、現場で変更ということも多いと考えた。以上のようなことから展示改装工事ということではなく、展示改装製作業務ということで、予算は委託費で計上することになった。予算の獲得については、前述した企画書で想定した10億円という額が前提にあるために、これを増額することは大変なことであったが、いく分かは努力の成果があった。
次に問題になるのが、この製作委託をどのような形で発注するかであった。この場合に考えられるのが、指名競争入札と設計者との随意契約であるが、これらのメリットとデメリットを慎重に比較検討し、併せて法律的根拠も検討した結果、設計者との随意契約の方がメリットが大きいと判断された。その理由は、次のようなことである。1.展示改装は、通常の土木・建築工事とは異なり、黎明館の理念、計画、要望が十分反映されたものでなければならない。このためには、設計段階から発注者と設計者間で十分な協議、調整が行われたうえで、その結果が改装に忠実に反映されなければならない。さらに、博物館の展示は、館が固有に持つ資料の特徴を最大限に生かし、観覧者の理解と感動を呼び起こすものでなくてはならず、そのために設計段階で優れたアイディアを企画書で選定し、設計が行われたものであることから、発注に当たって単に金銭で争う競争入札にはなじまないと考えた。2.黎明館では企画書の発注に当たっては、アイディア・企画能力のうえに、施工能力も勘案して選択し、さらに常設展示検討委員会等の検討を経て最優秀案を選定した。従って委託の発注に際して、改めてすでに競争させた者を再度同一線上で競争させることは、そのアイディア・企画を生かすためのこのような事業においては合理性に欠けることになる。3.設計者は、展示改装の設計を行うに当たって、黎明館との綿密な協議や館が持つ学術情報の活用により、展示改装の施工上のノウハウ・デザインイメージ等を確立するに至っている。このノウハウの確立には相当な期間、労力、経費を要している。また、このノウハウは黎明館の展示改装のみに適応するものであるが、実施設計書上に全てを表現しえず、設計者のみが保有する特殊な技術と判断され随意契約の対象となる。
さらに問題になるのは、発注額の予定価格の立て方である。設計者は、設計の過程で黎明館側の積算額を推定できることから、予算執行上の公正性や効率性に疑念が生じないように細心の注意を払いながら、次の方法で行った。
1.設計者が設計した数量を県独自の歩掛、あるいは単価等で積算し直す。
2.模型、グラフィック等の専門的なものについては、先例館の見積書提出先の調査等を行い、独自に選択した専門業者3社の見積書によって積算する。
以上のような経緯を経て、基本・実施設計を担当した丹青社と随意契約を締結する運びとなったが、これには県議会の議決が必要であり、実際に仕事が始められるまでにはしばらく時間がかかった。
(6)展示改装製作の開始
業務委託契約の締結は平成7年11月21日、県議会の議決が12月15日で、これ以後本格的な製作が開始されたわけである。履行期限は平成8年9月末と決まり、以後は完成に向けて館側と丹青社一体となって進んだ。 まず、相互に確認したことは、館側の責任者及び各部門担当者と施工者側の責任者及び部門担当者ないし工種別担当者の名簿を作成し、交換することであった。このような事業を進めるうえでは、窓口をしっかり決めておかなければ様々なトラブルのもとになる。特に施工の段階では予算を伴うため、そのトラブルは事業全体の計画に影響を与えることになりかねない。黎明館側の担当者は、歴史、考古、民俗、美術・工芸部門に分かれ、施工者側は1〜3階のフロアーごとの担当者及び造作、模型・造型・レプリカ、グラフィック、映像・音響・取付けパーツ、設備等の工種別担当者も決めた。
次に必要なことは,工期全体を見すえた工程計画を立てることである。リニューアルオープンの日も予定されていたので、これに向けた平成7年12月から8年9月末までのおおまかな工種ごとの工程表を作成した。工程としては、仮設・解体、展示造作、グラフィック、映像・音響のハードとソフト、模型・造型、パーツ、空調・給排水、電気・設備、レプリカ工事等に分けて考え、工場での検収予定も入れた。さらに詳細な工程は、毎月作成することとし、併せて定例打合せ会を設定し、工程及び作業内容、変更点等を工程表や議事録として作成し、相互に確認しながら進行管理を行うことにした。以上のようなことを確認しながら作業に入っていったが、実際には平成8年3月までは開館運営しながらの作業であったので、現場の調査・実測、レイアウト検討、施工図作成、指定図作成等のほか一部原材料の調査等が中心であった。実際の作業は、4月1日から展示場閉鎖になったので、それ以後本格的になった。
しかし,4月1日以降も特別展示室や講堂等は運営しながらの作業であったため、来館者の安全を徹底するように配慮し、作業区域に仮囲いを設置し、併せて既存施設の養生も行った。撤去作業は約1か月で終了し、旧展示があるときの様子から一変して広々とした空間が現われた。解体に関しては、一部既存設備を新展示に活用するものがあり、この場合は特に注意が必要であり、そのための入念な養生が必要であった。その後は実質的な新展示製作に入っていったわけであるが、展示ケース等大型のものについては、製作にかかる前に工場で試作品を作り、色彩の具合や実際に近い照明でテストを行う等慎重な検討を行い、図面を変更していった。開口部の作り方、ケース内の熱抜きの方法をどのようにして行うか、調光装置の具合はどうか、照度分布は良いか等を注意した。この作業が、本格的な製作にかかるゴーサインを出すことになるわけだが、責任を感じる瞬間であった。
造作工事は、館内に現場があるので何回も足を運ぶことが可能であるし、現場取り合せで問題が生じた場合は、すぐに対応できる体制であったことは好都合であった。
映像・音響関係では、分かりやすい展示につとめるということから、大小合わせて約50本の映像ソフトを制作したが、これは大変な作業であった。季節感のある映像もあるため、シナリオを検討しながらロケーションを行う必要もあり、とにかく時間に追われながらの作業が続いた。結果としては、90秒程度のものから10数分の映像が予定通りに完成し、現在は大部分をパソコンのサーバに入れ、展示場の端末で見ることができるようになっている。
映像・音響ソフトの制作とともに十分に検討を重ねたのがハード面である。どのような機材を使用するのか、新製品かあるいは安定期に入った製品か、地元における代理店の有無及びメンテナンスの良さ、将来の市場性等を考えた。大勢の観覧者に利用される機器であるため、思いがけない使い方をされることも予想されるので、耐久性については十分考慮すべきである。
模型製作については、改装の目玉とするため、それぞれの時代の展示のシンボルとなる大型のものを作る方針であった。模型の内容については後述するが、大型模型であるだけに詳細な情報が必要であり、担当職員は大変であった。これには館外の専門家を監修者として依頼し、図面段階から何度も打合せを行って図面の修正を行うとともに、製作にかかる前には模型の一部を試作し全員で検討した。製作にかかった段階では、監修者とともに工場における検収も数回にわたって実施した。また、一部の模型については、映像との組み合せで展示するものがあり、これについては映像ソフト制作も併せて行った。
最後にレプリカ製作について述べるが、これは予算的には展示改装の委託費で製作したものと、別途レプリカ製作の予算で作ったものに分けられる。特にレプリカの内容に違いはなく、立体的な資料を中心に展示改装費の中で実施した。別途予算の執行分については、7〜8年度にかけて製作した。業者選定、入札、契約と手順を踏んで行うわけであるが、各会社の製作技法やレベルの違い等があり難しいところもあった。基本的には、平面的なもの、立体的なもの、あるいは両方とも作成できる会社を選定したが、納品先等の実績を重視した。
「展示改装の年次計画」
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