世界銀行の文化遺産に対する関心の高まりは、同銀行の頭取、多くの幹部、顧客政府も表明しており、これは急務に取り組み、適切な活動に着手する決意を示しています。世界銀行では、新しい柔軟な融資手段や、その他の可能な方法を利用して、顧客の関心と優先度に従って、支援を提供する準備をしました。
過去においても、銀行出資プロジェクトが文化遺産の一部に関係している場合がありました。今回の活動では、事前対策的な立場を取り、貧困緩和、社会的団結、紛争解決、そして特に民主主義と環境の保護に関係する、文化面での発展を重視します。
こうした過程には本質的に、国際的な関心・価値と、愛国心・倫理・宗教的慣習の主張や地域社会の優先度との相互関係が含まれます。文化遺産を未来に残すための鍵は、こうした地域社会の営みや社会の相互作用との結びつきにあります。
文化遺産の保護や管理の経験は、世界中のさまざまな組織や個人が保有しています。ネットワーク計画グループを召集することで、世界銀行はこうした組織や個人が持ちうる力を認識し、共同作業の機会を探っています。共同作業は、このネットワークを通じて、さらに機関同士の合意によって、実現を目指しています。
最初の共同作業は、1997年11月にJ. Paul Getty Trustと結んだ、文化遺産維持のための運用提携でした。その他の組織や国家政府も、同様の合意に基づいて活動しています。
情報は、主張・教育・プロジェクトの計画と実施・資金調達・調査・鑑定・機関の設置において有効に利用できるように、整理・提示すべきです。また、その情報を利用する世界中の各団体にとって最適な形式で、整理・提示すべきです。
文化遺産管理に関する既存の情報は、社会経済の発展・環境保護・土地利用計画・法律・金融といった関連分野の補足的な資料によって増強する必要があります。数多くの知識の隙間は、目的別データ収集・分析・研究・文化遺産の認知を強化する調査ツールの相互開発を通じて、埋めることができます。
Getty Information Institute(ゲティ情報協会)は、ネットワーク情報行動グループを統轄することに合意しており、1月28日の会合で、世界銀行のスタッフと作業を開始しました。両者は、コンピュータを通じて利用できる既存の情報源へのインターネット・ゲートウェイを設置するための最初のステップについて検討しました。ICOM副委員長のPatrick Boylanは、メーリングリストを設置・管理しており、ネットワークメンバーのLISTSERVとなっています。
文化遺産保護を社会経済発展の枠組みに取り入れると、グローバル化・基本施設・観光業の課題をチャンスに変える可能性が生まれます。文化を、発展の中で、発展に役立つもの−−生活共同体の中の価値ある表現や物品−−として捉えることは、保護の優先度設定や管理に関する地域の所有意識・責任を強化することにつながります。この全体論的・予防的な視点の主張が成功させるには、文化と発展の専門家の両方、さらにあらゆる種類の地区・国家の投資者にとっての明確な利益を証明する共同事業を定義しなくてはいけません。
プロジェクトでは、文化遺産保護団体同士が協力し、共同で作業を進め、文化とは関係のない部門や、その国の専門家・地域住民も参加させます。また、地域住民に利益を与え、仕事の継続性を保証する社会経済戦略に関して、先導する地域投資家と共に、慎重に計画・考案・試験を行わなくてはいけません。
事例研究の要約は、信頼できる方法論と、広い意味での文化遺産と発展に最適なアプローチの数々を提示してくれます。成功したプロジェクトを十分に説明し公表すれば、この作業の資金源拡大を主張した実例を示すことで、保護と発展の動機を強化することになります。
社会経済発展の視点をネットワークメンバーの活動プログラムに加えると、文化遺産保護プロジェクトの準備と実施を支援する新しい資金源が必要になると同時に、こうした資金源を利用するチャンスが生まれます。地域共同体が、保護の優先度設定や、こうした優先度と幅広い発展のニーズとの連結や、こうしたプロジェクトの社会的・経済的利益の証明に参加する機会が増えれば、公的機関・財団・民間による文化遺産保護への出資増加につながります。
基本的な要件は、文化遺産の定義であり、これはマッピングによる地理上の位置の特定に始まります。次に、物質文化・生活文化の両方の遺産を記録する必要があり、これは現代における文化遺産消失の速度を考えると急を要する任務といえます。こうした文化の多様性の記録は、生物の多様性を記録するのと同じく大変な仕事であり、分析と優先度設定を可能にするための基本的なステップです。
遺産に関する個別および全般的情報の記録・整理・提示を正確に行う上で、非常に優れたツールが存在しています。こうしたツールには、地理情報システム(GIS)、全地球測位システム(GPS)、遠隔計測、、コンピュータ、インターネットとwww、デジタルおよびアナログビデオ・オーディオ機器などが含まれます。こうしたツールの共同使用や開発を通して、このネットワークの調査や知識管理の予定は強化されていきます。
生活文化は地域社会をベースとして記録する必要があります。文化的資源から地域の投資家が得る利益を分析することが、文化遺産保護と、何よりも重要な発展の目標である貧困緩和を結びつけるための鍵になります。
文化経済学的な調査が最も重要です。文化遺産保護のコスト・利益分析および経済的見返りに関する一連の知識の獲得や、評価方法に関する先駆的活動の環境経済学からの流用に、早急に注目する必要があります。こうした活動は、幅広い遺産の保護・管理・保存の課題を解決するための主張や、必要な経済的資源の調達を行う上で、重要な役割を果たします。
ネットワークの代表者と世界銀行のスタッフからなる小グループは、文化遺産と発展のための優先度や協力行動を考慮しつつ、世界の主な地域の状況について話し合いました。議題は、情報、プロジェクト開発、実施のための既存の支援、政策調査、評価、各地域でのネットワークの役割などでした。
世界銀行では、文化遺産の統合を、上層部からの援助、国家支援戦略の検査、全国環境行動プラン、環境評価、地域・国別活動とともに進めるべきです。健全で十分に準備されたプロジェクトと地域のリーダーシップにより、慎重に開始することを推奨します。
既存の活動や計画されている活動のための協力活動を促進すべきです。世界銀行の文化遺産活動の中心は、ネットワークとの連絡機構の役割を果たし、協力分野・優先度・特定のプランの決定を助けることができます。インドで進行しているような国家的な文化遺産行動プランは、包括的な計画立案という意味で奨励すべきです。1998年5月に世界銀行経済開発協会は大規模な投資家の討論会を開き、インドでの国家プランやプロジェクト開発について検討する予定です。
追加の資金源が必要とされており、この目標のために、環境保護と明確なつながりのある文化財の保護に関しては、世界環境機関Global Environmental Facilityからのある程度の資源の割当を考慮する可能性があります。
この地域では6つの国々(インド、ラオス、カンボジア、ベトナム、インドネシア、中国)に優先的に目を向ける必要があります。ヒマラヤ地域に対する注目も考慮すべきです。
情報ネットワークの形成にあたっては、最初の段階からアフリカを含めておくことが重要です。こうしたネットワークでは、アフリカ内外で入手できる多数の既存の調査や資料にアクセスできるようにし、インターネットで使用できるように設計すべきであり、情報の収集と普及のためのメカニズムが必要です。会合、プロジェクト、先駆事業に関しての調整、協力活動、情報の共有を早急に行い、既存の資源からの利益を最大限にしなくてはいけません。ICCROM、ICOM(AFRICOMを通じて)、UNESCOの大きな成果は注目に値します。
世界銀行は、ノルウェー政府、スウェーデン政府、ロックフェラー財団、UNESCOを共同スポンサーに、アフリカにおける文化と発展に関する国際会議を1992年に召集し、その議事録を発表しました。現在、世界銀行では、アフリカでの文化遺産プロジェクトの必要性と機会を調査するためにささやかな努力を開始したいと考えています。
このアプローチでは、地域のプロジェクト所有権を保証し、アフリカの機関が果たせる役割を重視すべきです。本当の協力活動において、「研修」のコンセプトは、情報の共有・教育・能力開発を包含するまでに進歩します。過去の経験は、アフリカには独自の特性があるため、アフリカの外で開発された文化遺産保存技術と、アフリカの状況に合わせて特別に準備したアプローチを融合させる必要があることを示しています。
アフリカには、文化遺産と差し迫った社会経済開発目標、つまり雇用開発・技術研修・貧困緩和・社会統一・健康・教育などを、統合する機会が数多く存在しています。参加する組織や機関を確認し、目標を設定し、プロジェクトの評価基準を確立するための調査が必要です。この地域の各地で起こっている紛争や国家の動揺も、さらなる課題となっています。
この地域で活動するネットワーク組織は、予定される会合や協議事項の準備支援に勧誘することで、さらに協力の機会を得られます。欧州委員会は文化遺産に関する会合をさまざまな国で順次開催する予定です。世界建造物基金が1998年5月に予定している会合では、危機に瀕した建造物や遺跡を世界建造物監視リストWorld Monuments Watch listに登録するプロセス、さらに復元と保護に関する問題について検討する予定です。
この地域の試験プロジェクトでは、各ネットワーク機関が確認・設計・資金調達・実施・モニター活動において協力的に参加すべきです。こうした共同努力は、資金調達や実施に際しての建設的なアプローチの模索を刺激し、より経済的な資源の利用法につながります。
グルジアで現在行われている文化遺産プロジェクトは、世界銀行の新しい調整可能な融資手段、ラーニング・アンド・イノベーション・ローンLearning and Innovation Loan(LIL)を通じて出資されており、地域が文化を優先し維持する能力を形成するための文化観光活動を探求しています。文化観光活動の分野では、さまざまなネットワーク機関が大量の経験を有しています。ボスニア・ヘルツェゴビナのモスタールにある歴史上重要な橋、Stari Mostの再建は、協力活動や補足的資源の適用を行う可能性のある、もう一つのプロジェクトです。いくつかのネットワーク機関は、全体としての調整なしに、このプロジェクトの準備の一部に参加しました。
この地域の国々の代表者と文化遺産保護について話し合い、幅広い範囲の寄付者からの支援を取り付ける必要があります。
広範な文化遺産資源がある地域では、優先度の設定は極めて難しくなります。考えられる3つの判断基準は、その分野の専門家の見解、危機に瀕した建造物・遺跡・文化形態、地域の選択です。UNESCOは遺跡の3つのレベルを定めています。これは、世界遺産遺跡、「指定」遺跡または世界遺産の地位を得る可能性のある遺跡、国・地域の文化遺産関係機関がデータベース登録を認定する価値があると判断したすべての遺跡の3種類です。
危機に瀕した遺跡のリストは数多く存在しています。ただし、こうした意見は地域社会の価値や観点と比較して評価する必要があります。プロジェクトの判断と企画を行う上では、観光そのものではなく、地域の管理・参加・利益を重視すべきです。プロジェクトを成功させるには、戦略的なプランニングや投資家との話し合いが重要な要素となります。
この地域の文化遺産は象徴的な意義を非常に多く持っています。根の深い紛争が広がっているため、実施するすべてのプロジェクトにおいて、倫理と現実性の考慮を何よりも優先すべきです。
協力活動の例は、地域と国家の両方のレベルで存在しています。進捗は遅く、困難である場合が多いとしても、文化遺産への関心や支援を拡大するために、投資家を集めるプロセスが不可欠です。重要な参加者にとしては、国家・地域政府当局者、特に文化や環境の責任者、観光事業を含む民間部門の代表者、非政府団体、金融機関・開発機関当局者が挙げられます。文化機関の形成や民主的な文化のビジョンを育むために、民主的なプロセスを利用する努力を行っています。
資金調達は問題であり、特に予算縮小の時期には、文化に対する公的な割当が削除されます。技術的な援助・研修・教育と共に、生産や経済利益を発生させるプロジェクトが大切です。この地域では、都市部の貧困と各都市の史跡地区の保護が課題となります。
このページは、1998年3月29日に、ロンドンのCity University、芸術政策管理部のPatrick Boylan(P.Boylan@city.ac.uk)が作成しました。