本年の正倉院展は、北倉19件、中倉21件、南倉28件、聖語蔵3件の総計71件の宝物が出陳されます。このうち初出陳が14件含まれています。正倉院宝物の全体が概観できるような構成になっていますが、平城遷都1300年の記念の年にふさわしく、宝庫を代表する宝物が揃う点、平城京に生きた人々の暮らしぶりのうかがえる宝物が多数出陳される点に本年の特色があります。北倉に伝わった聖武天皇御遺愛品としては、正倉院宝物を象徴するような存在として名高い螺鈿紫檀五絃琵琶が19年ぶりに出陳されるのが特筆されます。また、光明皇后が聖武天皇御遺愛の品々と共に、天皇の七七忌に当たる天平勝宝8歳(756)6月21日に東大寺大仏に薬物を献納した際の目録である「種々薬帳」が、五色龍歯 、大黄などの同帳記載の薬物と共に展示されます。このほか光明皇后の崩御後1250年に当たる今回は、皇后御自身が着用された可能性もある線鞋などゆかりの宝物も出陳されます。また称徳天皇によって東大寺大仏に献納されたと考えられる銀壺 や、献物を納めた蘇芳地彩絵箱などの煌びやか献物箱からは、大仏に託した人々の願いの深さが推し測られます。そして、異国情緒あふれる白橡綾錦几褥、漆胡樽佐波理水瓶などの宝物は、遣唐使を通じてもたらされた唐文化が花開いた平城京の賑わいを彷彿させます。殊に象徴的であったのが、各国の楽舞が行われた大仏開眼会。胡人を表した伎楽面や唐散楽の衣装は、国際色豊かな法会の様をうかがわせます。加えて、この法会に用いられたと推測される蓮花残欠や夾纈羅中幡残欠は、荘厳の華やかさを今に伝えています。このほか遠江国調黄などの貢納品をはじめ、やりがんなや錯などの工匠具、伝世した木簡である雑ざっ札さつ、平城京右京に住んだ人々の徴税に用いられた計帳、興味深いところでは下級官人の提出した盗難届など、平城京に生きた人々の息吹を身近に感じさせる宝物が出陳され、1300年前に築かれた都の姿を思い描かせてくれます。
さらに、平成17年度から20年度の4箇年にわたり宮内庁正倉院事務所によって行われた正倉院宝物特別調査・紙(第2次)の結果、新たな知見の得られた料紙、文書、写経等の宝物も出陳され、最先端の研究成果が示されます。
※展示の都合により、宮内庁正倉院事務所発表の件数とは異なっています。