サイ・トゥオンブリー(1928-2011、米国ヴァージニア州生まれ)は、ロスコやポロックら抽象表現主義と呼ばれる巨匠たちの次世代にあたり、子どもの落書きを思わせる独特の画風で20世紀美術史にその名を刻んだ画家です。ボストン美術学院、ニューヨークのアート・ステューデンツ・リーグで絵を学び、学生時代からロバート・マザウェルらに画才を認められていました。1960年代以降はニューヨークの主要画廊やヨーロッパの美術館で個展や大回顧展が華々しく催されましたが、写真作品が発表されたのは1990年代に入ってからのことです。
トゥオンブリーが写真制作を始めたきっかけは23歳の時に参加したブラック・マウンテン・カレッジの授業でした。このとき彼はピンホールカメラに熱中し、その後も絵画を中心とした創作活動のかたわら、おもにポラロイドで撮影が続けられました。17世紀の宮殿、大理石のテーブルに置かれたキャベツや朽ちてゆく花、制作途中の絵や画材が散るアトリエ、穏やかな海の眺め――いずれも作家にとっての日常風景ですが、写真の中の像は色と形が混ざり合い、実態が曖昧になることで、チューリップがローマ彫刻へ、静物が風景へと軽やかに姿を変え、私たちの視覚をより拡がりのある地平へ解放します。
本展はイタリアのニコラ・デル・ロッショ財団、ニコラ・デル・ロッショ・アーカイブの全面協力により、トゥオンブリーが1951年から2011年まで60年間にわたって撮影した写真作品のなかから100点を紹介する国内待望の展覧会です。併せて、絵画3点、彫刻4点、ドローイング4点、版画18点を展示し、異なるメディアを往還したトゥオンブリーの作品に通底する眼差しを、写真を介して取り結びます。