今回の展示は、江戸時代から明治にかけて大いに流行し、大正、昭和を経て現代に至るまで命脈を保ってきた多種多様な見世物の様相を、主に国立歴史民俗博物館と個人が所蔵する絵看板・錦絵・一枚摺やなどの展示を通して紹介するものです。
江戸時代以降、軽業や曲芸などの技芸見世物、一式飾や生人形などの細工見世物、ラクダやゾウなどの動物見世物などの様々な見世物は、都市の盛り場や社寺の祭礼での興行において、多彩な内容や表現を次々と創出し、老若男女を問わず大勢の見物人を魅了してきました。
また、江戸時代には、異国から渡来した動物見世物、異国由来をうたった軽業や曲芸、異国の故事や人物や風俗を題材にした細工見世物が人気を博したり、明治時代には、西洋から伝来したサーカスや電気機器などの科学的な見世物も登場したりして、その時々の人々の異国・異文化イメージの形成に多大な影響を与えました。一方、明治の開国と共に、多くの軽業芸人が日本から海外に進出し、活躍して各地に足跡を残しました。
こうした見世物の内容や表現は、見世物という1つのジャンル内に止まるものではなく、歌舞伎や人形芝居などの芸能、講談や落語などの語り物、読本や滑稽本などの文学といったほかの様々なジャンルと通底し、それらを享受する人々に複合的に作用することで、人々の歴史や文化に関する知識や情報や感覚の共有が形成されていきました。
更に、多種多様な見世物の内容や表現は全国各地に伝わり、祭礼や年中行事において地域の人々自らが行う民俗芸能や造形活動として定着し、民俗文化としての広がりを持つに至りました。
展示では、江戸時代を中心として、明治・大正・昭和を経て現代に至るまで、多種多様な内容や表現によって人々を魅了してきた見世物の実態を紹介します。併せて、そうした見世物の享受を通じて醸成された人々のハレの感覚や価値観、異文化に関する情報の受容とイメージの形成について、従来とは趣を異にする新たな理解を提示します。
なお、既存の展示資料である「のぞきからくり」、「早竹虎吉軽業 模型」、「三尊仏」なども関連資料として紹介します。