田村正樹の作品は、質感の違う無彩色の素材が不均等に重なり合い、「ゆらぎ」を感じさせます。それは、波なのか、風なのか…何か流れが表現されているように思えます。観るものは想像力を働かせて、作品の世界に吸い込まれていきます。
田村は学生時代、錆びた鉄、朽ちた土壁などの古びた姿に興味を持ち、油彩で描いていました。しかし、何枚も描いていく中でモチーフでの表現について疑問を感じ、本当に描きたいものは何なのかと考えた結果、「時間の経過を表現したい」と思い始めました。そこから、形態を描く具象から、時間の推移を表現する抽象に変化しました。
モノは時間が経過すると、艶をなくしていきます。田村は、作品の中でもそのマットな質感を求めていき、既成概念にとらわれない表現方法を試行錯誤してきました。自分の足元から派生するものを見直そうと思い始め、日本画で用いられる、和紙と胡粉(ごふん)を素材としました。画面に絵具や胡粉を刷毛やこてでドローイングし、部分的に和紙を貼り、何度か同じ行程を行っていきます。ゴツゴツとした胡粉と独特の質感のある和紙を重ねることで、新しい質感や色が現れてきます。堅牢であるが、動きのある世界を作り出し、テーマである「時の流れ」に繋がるのです。
田村正樹による公立文化施設初めての本展では、今までの集大成ということで過去の作品とともに、今回のために作られた新作もご紹介します。