本学の非常勤講師をしている菅原智子の作品展です。
菅原は、イタリアに拠点を置き、各国で展覧会を開催しています。
菅原は、暮らしの中で目にする野菜や植物などの形や色に強く惹かれるといいます。自然の働きによって生成された形。色素や細胞壁の重なりによる発色。一方、人為的に作られたものに対して、拒絶に近い感覚を抱くこともあるそうです。実際、菅原の制作の軌跡を振り返ると、意図的に引かれた線や形が徐々に消えていくのに気づかされます。90年代のテンペラ作品では不定形な実体と影のような形が描かれていますが、テンペラと油を併用した近作では描画の痕跡は消え、水と油の作用で偶発的に生まれた滲みや染み、液体の溜まりなどが織りなす繊細な表情が主役として存在しています。
制作の最中、作家は平面上に現れる微細な現象と対話しながら色を重ね、多くの作品は数十もの層で成り立っています。次の層で何が起きるのかは実は作家もわからないといいます。経験値が保証する領域を乗り越えつつ、偶然と作為のはざまを縫って制作は進行し、予定調和を超えたところで終了します。そこには偶然性への開かれたスタンスと鋭敏な状況観察にもとづく意志的選択という二つの相反する要素が緊張感を持って存在しているのです。
菅原は古い邸宅や教会など時間の染み込んだ場での展示も数多く行ってきました。この度は和風モダンのテイストを持つ当館での展示となります。初期から近作まで約30年の時間の幅を持つ作品群が作家の手により美術館の空間に配置されていきます。作品と空間がどのような相互作用を持つのか、ぜひ、会場で体感してください。