1月から4月は、新しい年を迎え、学校でも仕事でも年度が改まる時期です。春は私たちの生活と心に、何かがはじまる感じをもたらします。本展では、所蔵作品を中心に美術作品を「はじまり」という視点から見直して、みなさまに心の春を感じていただこうと思います。
美術作品のなかにもさまざまな意味で「はじまり」が感じられる作品があります。春や朝、芽生えや誕生をテーマにした作品もそうですし、線や色、かたちという、造形のはじまりになる要素をとくに取り上げた作品、一人の作り手が初めて作った作品もあります。
作り手が初めて作った作品が残っていることはまれですが、自身の制作の出発地点を探る意識を持って作られた作品はときに見ることができます。何を作ろうとしているかもわからないもどかしさとともに、発見の喜びが感じられる作品は、技術はおよばなくても、作り手自身が深い愛着をもって残したと考えられます。その当時の美術教育の方法によって、模写や、写生など試みの内容は異なりますが、それらの作品からたしかに新鮮な感じを受けることができます。
また、制作を続けていくうちに、特別なテーマを得た作り手が、同じテーマを繰り返し描き、展開させていく連作に取り組むことがあります。当館のコレクションにも、そのはじまり「No.1」がタイトルに冠された作品がいくつかあります。連作のはじまりと、その展開を見ていくと、それが、そのひとの仕事を続けていく支えになっていることがわかります。こうした連作を見ると、制作が、ひらめきばかりではなく、いかに有機的に、意識的に継続されて実現されているものかと心を打たれます。美術は一握りの天才だけが関われるものではなく、あらゆる人にあらかじめ開かれている場所だと実感するからです。
そして、当館の学芸員が、いまの、そして、これからの自身の研究のはじまりになると考えている作品も、あわせてご紹介いたします。その研究の成果として、将来、どのような展覧会をお目にかけることができるか、そのはじまりから予想してお楽しみください。
【関連イベント】
■担当学芸員によるフロアレクチャー
1月27日(土)、3月10日(土)、3月24日(土) いずれも14時から15時まで、展示室にて (※申込不要、要観覧券)