原作を高森朝雄(梶原一騎の別名義)、作画はちばてつやが手掛けたあしたのジョー。天涯孤独の身でドヤ街に流れ着いた矢吹丈、飲んだくれの師・丹下段平。力石徹をはじめホセ・メンドーサ、カーロス・リベラなど魅力あふれるライバルたち。漫画史に残るエンディングも含め、その世界観はスポーツ漫画のひとつの頂点を築きました。
本展はあしたのジョーを通し、1960年代末から70年代初頭の文化を4章で振り返る企画です。
第1章「あしたのジョー、の世界」では、ジョーの冒頭シーンをはじめ表紙・扉絵原画などを紹介。泪橋の下にある丹下拳闘クラブのジオラマには、ちゃんとリングも作られています。
第1章「あしたのジョー、の世界」2~4章は2階で展示。階段にもジョーと力石の絵が描かれ、雰囲気を盛り上げます。第2章は「あしたのジョー、の時代」。当時のレコードなど関連資料を紹介しながら、ジョーが活躍した時代を振り返ります。
赤軍派による日航機「よど号」ハイジャック事件で、リーダー格の田宮高麿が「我々は"明日のジョー"である」と宣言。あしたのジョーは、反体制的な文化の象徴としてしばしば言及されてきました。
劇中で1970年に力石徹が死去すると、寺山修司らが中心になって実際に告別式が開催され、800人もが参列しました。本展でも力石の祭壇が設けられています。
第2章「あしたのジョー、の時代」第3章は「あしたのジョー、肉体の叛乱」。ジョーと戦うために減量しガリガリに痩せ細った力石など、あしたのジョーでは肉体の描写も印象に残りますが、この時代は芸術の分野でも肉体を使った表現が多く見られました。
この章では「万博破壊共闘派」(前衛芸術集団「ゼロ次元」、秋山祐徳太子、末永蒼生ら)、暗黒舞踏の土方巽らによる裸体パフォーマンスが紹介されています。
第3章「あしたのジョー、肉体の叛乱」第4章は「あしたのジョー、あしたはどっちだ」。ジョーの連載は1973年で終了しましたが、その物語は人々の記憶に深く刻まれました。この章には、あしたのジョーへのオマージュ作品が並びます。
出展したクリエイターは葛西薫、K2(黒田征太郎、長友啓典)、浅葉克己、日比野克彦ら。中でも傑作は及川正通の《ジョーは不死鳥》。顕微鏡内でジョーを再び甦らせたのは、例の研究者です。
第4章「あしたのジョー、あしたはどっちだ」会場には原画も多数出品。あまりにも有名なジョーの最後(最期?)も展示されています。
葉子の告白を振り切って、世界最強の男が待つリングに向かうジョー。ホセ・メンドーサとの15ラウンドに渡る死闘。血まみれのグローブを葉子に渡したジョーは、真っ白な灰に…。既に語りつくされた感がある場面にも関わらず。涙が出そうになるのは何故でしょうか。
日本漫画史に残るエンディング「あしたのジョー、の時代展」は、漫画家の街としても知られる練馬区だけでの開催です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年7月19日 ]