ギャラリー1を中心に行われている本展。まずは島村信之さん(1965-)からです。
近年は甲殻類などの作品も手掛けている島村さん。本展でも昆虫を描いた作品も発表されていますが、やはり島村さんといえば美しい女性像。ここでは新作《月光》をご紹介します。
光に照らされた白い女性像を描いてきた島村さんですが、本作は一転して黒っぽい画面。ただ島村さんによると「光に満たされる」も「黒に溶け込む」も表裏一体であり、ともに“いかに女性の肌を美しく表現するか”を追及した末の表現です。これまでの白い作品とあわせて、ご覧ください。
島村信之さんの作品続いて、五味文彦(1953-)さん。ギャラリー1に入ってすぐの《樹影が刻まれる時》は、左側から右側に流れるような構成です。空間表現や存在感がある巨木は、琳派や狩野派などの日本画から着想したもの。綿密に描き込まれた葉について「もうしばらく葉っぱは描きたくない」と、ユーモア交じりに解説しました。
もうひとつの新作《UTSUSEMI》は、ギャラリー3での展示。こちらは剝製の描き込みが見もので、毛の1本1本が奥からこちらに向かって生えている表現は、驚異的としか言いようがありません。ちなみにこの作品は、2016年のホキ美術館カレンダーでも使われています(11・12月)。
五味文彦さんの作品3人目は大畑稔浩(1960-)さん。海や自然の作品に定評がある大畑さんの新作は《気配》シリーズ。2004年に引越してきた自邸の庭を描いたもので、春・夏・秋の3作が発表されました(冬は後日制作される予定です)。
特徴的なのは、その描き方です。近寄って見ると、写実絵画にしては珍しいざらっとした質感に気が付きますが、これは現場で採取した葉や土などを粉にして絵具に混ぜたもの。まさに「本物」を付加する事によって、視覚的な現実を超えたリアルに近づこうとする試みです。
絵画でありながら視覚的な表現だけに満足しない、大畑さんならではこだわりが現れています。
大畑稔浩さんの作品企画展のご紹介はここまでですが、最後に森本草介さん(1937-2015)の作品にも触れたいと思います。写実絵画の第一人者だった森本草介さんですが、今年10月1日に78歳で他界されました。
もともと絵に興味を持っていた株式会社ホギメディカル創業者の保木将夫さんが、写実絵画を集めるきっかけになったのが、森本草介さんの作品でした。1997年、保木さんは美術年鑑に掲載されていた森本さんの作品に魅せられて展覧会へ足を運び、その作品の素晴らしさに胸をうたれて購入を決意。以降、森本さんの作品をはじめ、他の作家による写実絵画までコレクションの幅を広げた事が、
ホキ美術館の設立につながったのです。
保木さんが最初に購入したのが、1998年に描かれた《横になるポーズ》。美術館の開館以降も森本作品の蒐集は進み、現在では36点を所有しています。
森本草介さんの作品千葉市緑区の住宅街にある
ホキ美術館。最寄はJR外房線の土気(とけ)駅ですが、東京駅から直通の快速なら乗車時間はぴったり1時間と、意外と近場。東京駅近辺から専用バスで
ホキ美術館までご案内するバスツアーなどもありますので、詳しくは公式サイトでご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年11月19日 ]■ホキ美術館 3つの個性 に関するツイート