「1910年代から40年代にかけて中国服の女性を描いた日本人洋画家による作品」を集めた本展。かなり絞ったテーマですが、作品は前後期あわせて29点と、充実した展覧会になりました。
大正時代にわきおこった中国趣味。洋画では、まず藤島武二が中国服の女性像を描き始めました。会場最初に展示されている《匂い》が、藤島が最初に描いた中国服の女性像です。
展覧会メインビジュアルの《女の横顔》も藤島の作品です。モデルは竹久夢二の愛人で、「お葉」こと佐々木カ子ヨ(かねよ)。藤島は日本女性の横顔に不満を持っていましたが、カ子ヨの横顔には満足していたようです。
展示室1。順に、藤島武二《匂い》東京国立近代美術館蔵、藤島武二《女の横顔》ポーラ美術館蔵先ほどの《女の横顔》もそうですが、展示されている作品の約半数のモデルは日本人です。麗子像で知られる岸田劉生も、中国服を着せた妹・照子をモデルにしています。
この時期、劉生は立て続けに中国服姿の照子を水彩で描いており、こちらは3作目。この年に24歳になる照子、麗子にも慕われたという人柄が伺える、穏やかな表情です。
岸田劉生《照子像》会場はもう1室、ブリヂストン美術館最大の第2室にも続きます。ここでは絵が描かれた時期のチャイナドレスも紹介されています。
実は「チャイナドレス」は和製英語。中国語では旗袍(チーパオ)と呼ばれるワンピースです。現在では深いスリットが入りセクシーなイメージもありますが、当時は必ずしもそういったものではありませんでした。
アヘン戦争、辛亥革命と時代が進む中で、襟の形、裾の長さ、ボタンのデザイン、生地など、さまざまなヴァリエーションが生まれていきました。
第2室には実物のチャイナドレスも第2室では、こちらの2点をご紹介しましょう。
小出楢重の《周秋蘭立像》は、神戸在住の中国人を描いた作品。昭和3年頃、小出は中国服の女性を描きたいと熱望しており、小出が表紙デザインなどを手掛けていた月刊誌「辻馬車」の同人が、中国人女性をモデルとして紹介しました。
支那扇子を手に持ち、中国趣味が強く現れたこの作品は、現在ではリーガロイヤルホテルの1階メインラウンジで飾られています。
真っ直ぐにこちらを見つめる美少女は、児島虎次郎の《花卓の少女》。児島は中国を四度も訪ねて風景画や人物画を描いており、この作品は四回目の中国旅行で描かれたとみられています。
赤い背表紙の本を片手に、右手で頬杖をつく少女。濃い紫の中国服と対照的に、肌の白さが引き立ちます。
順に、小出楢重《周秋蘭立像》リーガロイヤルホテル蔵、児島虎次郎《花卓の少女》高梁市成羽美術館蔵「テーマ展示」として開催される本展。以前もこの項でご紹介しましたが、他館から集めた作品を楽しめると同時に、人気が高い所蔵作品も展示され、しかも観覧料は安め(コレクション展と同額)と、ブリヂストン美術館通なら狙い目です。
また本展は「チャイナドレス割引」も実施中。本格的なチャイナドレスはもちろん、中国服デザインがファッションの中に取り入れられていれば、団体料金で観覧できます(一般なら800円が600円)。「着物割引」は時おり見かけますが、こちらも珍しい試みです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年4月25日 ]