明治の実業家で、光村印刷の創業者である光村利藻(みつむらとしも)が収集した刀装具を中心に紹介する本展。第1章では全体像のダイジェストです。
刀装具とは、日本刀の拵(こしらえ:刀身以外の外装)に付けられた鍔(つば)や小柄(こづか)などの金具の事です。甲冑などと同様、江戸時代には装飾的になりますが、なにぶん刀に付けるものなので、大きさは限定的。装剣金工たちは競うように、極小の世界を華麗に象りました。
中にはルーペが置かれている作品も。本展では単眼鏡レンタルもあります。表面が凸凹しているのは「赤銅魚々子地」で、小さな円の模様はひとつひとつ鏨(たがね)で打ち込んでつくります。
第1章「稀代の刀装具コレクション」光村利藻の大きな功績が、刀装具の大型名品図録「鏨廼花」(たがねのはな)の出版。全国の所蔵先で作品を撮影するため、分解して持ち運べる撮影機材まで開発。装剣金工の略伝もまとめ、高く評価されました。
会場には「鏨廼花」に掲載されている写真と、実際の刀装具を並べた展示もあります。「鏨廼花」は刀装具研究の礎であり、同書に掲載されている刀装具は美術的にも高く評価されています。
光村は自邸で刀剣会も開催しています。残された写真を見ると、畳敷の大広間に刀剣や刀装具がずらり。かなりスケールが大きな刀剣会だった事もわかります。
第2章「出版と展示 ── 『鏨廼花』の編纂と多彩な文化活動」光村コレクションの中には、自身が発注者となって刀剣・刀装具をつくらせたものもあります。幕末に活躍した装剣金工が高齢化し、技術の継承が難しくなる中、当時の名工に製作の機会を与えようとしたのです。
光村は京阪地区を拠点としていたため、当地の画家とも親しく交わりました。中でも竹内栖鳳には心酔、熱心に作品を収集しました。竹内栖鳳も支援者に応えるべく、刀身彫りの下絵を描いた事も。刀の切れ味を感じさせる鋭いススキの描写は見事です。
第3章「光村利藻とパトロネージ」展覧会タイトルでもある「鏨」(たがね)は、金工で使う道具。鋼鉄製の小さな棒で、これを金属にあてて鎚(かなづち)で叩く事によって、細工を進めます。
現在ならCGと3Dプリンターで成形しそうですが、当たり前ですが当時は全て手づくり。あらためて驚異の手わざに脱帽です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年11月2日 ]■鏨の華 に関するツイート