スイスで最も重要な美術館のひとつ、チューリヒ美術館。1787年に地元の芸術家らが作品を語り合う場を設けた事がきっかけになって設立されました。積極的な作品購入とコレクターからの寄贈に支えられ、現在では中世美術から現代アートまで10万点以上の作品を所蔵しています。
本展ではチューリヒ美術館の近代美術コレクションから74点を紹介。会場は、ムンクやシャガールなど一人の芸術家を特集した「巨匠の部屋」が8室と、表現主義やシュルレアリスムなど美術運動を紹介する「時代の部屋」が6室、計14室を交互に辿る、ちょっと珍しい構成です。
最初の部屋はジョヴァンニ・セガンティーニ(1858-1899)。イタリア生まれですがスイスに住み、アルプスの風景やそこに暮らす人々を、純色を混ぜないで描画する分割主義の技法で描きました。
第1室「セガンティーニ」展覧会の目玉であるクロード・モネ(1840-1926)の《睡蓮の池、夕暮れ》は、次の部屋に登場します。夕暮れの光が水面に反射し、画面の中央はオレンジ色から黄色に。左右に離れるにつれて影が深くなり、深い紫色が広がっていきます。
モネの狙いは、横6メートル・縦2メートルという大きさがあってこそ。絵の近くに立つと視界全体にモネの絵が入り、まるで睡蓮の池に包まれたかのようです。この体験的な鑑賞は、モネ晩年の大作を味わう醍醐味。図録やウェブではなく、ぜひ現地でお確かめください。
この部屋には《ノルマンディーの藁葺きの家》《陽のあたる積み藁》《国会議事堂、日没》と、モネの作品が他に3点。ドガ、ロダンも紹介されています。
第2室「モネ」3室目は「ポスト印象派」。ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌらとともに紹介されているのが、アンリ・ルソー(1844-1910)です。
パリの税関に勤めていたため「ドワニエ(税官吏)ルソー」と呼ばれるアンリ・ルソー。正規の美術教育を受けず、40歳を過ぎてから絵を描きはじめ、サロンに出品してはもちろん落選。嘲笑にさらされた創作人生でしたが、現在では素朴派を代表する画家として高く評価されています。
展覧会メインビジュアルにも使われる《Ⅹ氏の肖像(ピエール・ロティ)》は、小説家のピエール・ロティを描いた作品(異なる説もあります)。タバコを手にトルコ帽を被ったロティは印象深い表情ですが、実はルソーはロティとの面識はなく、新聞や雑誌に掲載された写真をもとに描いたとされています。
第3室「ポスト印象派」4室目は、スイスの象徴主義を代表する画家、フェルディナント・ホドラー(1853-1918)。1890年頃に類似した形態の反復で秩序をもたらす「パラレリズム(平行主義)」を提唱しました。今秋は
国立西洋美術館でも
フェルディナント・ホドラー展が開催されます(10月7日~2015年1月12日)。
部屋の奥の大作《真実、第二ヴァージョン》も、パレリズムが色濃く現れた作品。中央に堂々と立つ裸体女性は真実の寓意、周囲の顔をそむける男性が悪を意味しています。ホドラーは1904年のウィーン分離派展にこの作品を含む31点を出品、大成功しています。
第4室「ホドラー」これで、まだ4室。この後「ナビ派」「ムンク」「表現主義」「ココシュカ」「フォーヴィスムとキュビスム」「クレー」「抽象絵画」「シャガール」「シュルレアリスム」「ジャコメッティ」と続きますが、このページではここまで。続きは会場でお楽しみください。
東京展は12月15日(月)まで。2015年1月31日(土)~5月10日(日)、
神戸市立博物館に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年9月24日 ]■チューリヒ美術館展 に関するツイート