1980年代半ばから日本美術を収集しているウェストン氏。特に印籠などの漆芸作品を熱心に集め、肉筆浮世絵の収集は90年代からですが、現在では個人コレクションとしては世界有数の規模と質といえるまでに成長しました。
ウェストン氏の浮世絵は肉筆のみ。浮世絵のコレクターで版画を全く所有していないのは珍しいですが、絵師その人の創作を直に感じ取れる肉筆にウェストン氏はこだっています。
ウェストンコレクションが日本で公開されるのは、本展が初めて。会場には50人以上の絵師による作品、計129点が並びます。
会場入口から会場は年代順の7章構成。本展は大阪からの巡回展ですので、まずは上方浮世絵を中心にご紹介しましょう。
3章で紹介されているのが、京都で活躍した西川祐信(にしかわすけのぶ:1671-1750)。風俗絵本など多くの版本を手掛け、江戸の浮世絵に大きな影響を与えました。
展示されているのは《髷を直す美人》と《観月舟遊図》の2点。気品漂う女性描写は、祐信の真骨頂です。
西川祐信の作品広い展示室で開催される大阪展。展示替えなしで、図録に収録されているすべての作品が一度に見られます。
歌川豊国の《時世粧百姿図》も、大阪展では全24図を一度に展示(他会場では展示替えで一部の作品が紹介される予定です)。官女や御殿女中などの上流層から、下は夜鷹や船饅頭(ともに街娼)まで、さまざまな階級の女性が描かれた作品です。
髪飾りや化粧、着物の柄などファッションもさまざま。客が食べ残した蟹を食べたり、お灸に顔をしかめたりと、ユーモラスな仕草もお楽しみください。
歌川豊国《時世粧百姿図》多くの絵師の作品が並ぶなかで、個性派No.1といえるのが祇園井特(ぎおんせいとく:1755/75-?)。こちらも京都で活躍した絵師です。
「美人画」ですので、女性は理想化された美しい像として描かれた作品が多い中、井特が描く女性はあきらかに異質。アクの強い顔つきが際立ちます。
その個性は、モデルをありのままに描こうとした結果とも言われています。リアルな花魁を描いてモデルが泣いて抗議したという高橋由一を、70年前に先取りした絵師ともいえます。
祇園井特の作品公式サイトでも案内されていますが、本展は特別に作られた薄型の展示ケースで展示しているため、極めて近くで鑑賞する事が可能。演色性が高い(つまり、自然光に近い発色の)照明や、透明度が高く反射が少ないアクリルパネルも用いており、支持体(絵のベース)である絹地の目まではっきりと見えるほどです。あたかも手に取って眺めるように、肉筆浮世絵の世界を堪能してください。
大阪展は2015年6月21日(日)まで。その後は長野展(
北斎館:7/11~10/13)、東京展(
上野の森美術館:11/20~1/17)に巡回します。
※会期中、毎週月曜日は休館(ただし、5月4日開館、5月7日は休館)
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年5月21日 ]■肉筆浮世絵 美の競艶 に関するツイート