震災で大きな被害に見舞われた気仙沼市。現在は撤去されましたが、駅前に打ち上げられた巨大な漁船(第18共徳丸)の姿が記憶に残っている方もいると思います。
同市のリアス・アーク美術館では震災直後から地域の姿を記録し続けており、その活動は震災から2年後に常設展示「東日本大震災の記録と津波の災害史」として公開されました。今回の展覧会は、この常設展示を初めて東京で大規模に紹介する企画です。
会場で目に入るのは、被災物が散乱するまちの写真。大量の報道の中で見慣れてしまったようにも思えますが、当然ながらいずれも元の姿がありました。写真に添えられたテキストをあわせて読むことで、イメージに具体性が伴います。
震災後に広まった情報や課題をテキストで表現したキーワードパネルも展示されています。「地盤沈下」「権利と責任」「絆」など108のワードから導かれる文章。中には辛辣な言葉もありますが、作成した学芸員自身が震災の被災者です。表面的ではない当事者の本音は、強く胸に迫ります。
なお、リアス・アーク美術館ではガレキという言葉は使いません。ガレキ(瓦礫)とは、価値が無いつまらないもの。たとえゴミのような姿になっても、大切な人生の記憶が残る被災物はガレキと呼ぶべきではない、という思いが込められています。
被災現場と被災物の写真パネル約260点、被災物(現物)11点、キーワードパネル108点が並ぶ会場昭和三陸大津波やチリ地震津波など、三陸沿岸部には平均して約40年に1度という頻度で大津波が襲来しています。会場では過去に報じられた新聞錦絵や写真などの歴史資料も展示、伝承する事の難しさを改めて感じます。
さらに特別展示として、漁具や民具など気仙沼の生活文化資料も展示。リアス・アーク美術館のもうひとつの常設展示である「方舟日記―海と山を生きるリアスな暮らし―」を紹介するもので、この地の豊かな文化は、海を中心とした自然が育んできた事がわかります。
歴史資料と、特別展示「方舟日記―海と山を生きるリアスな暮らし―」全体的に文字が多い展覧会ですが、じっくりと読む事をおすすめいたします。幸いにも本展は入館料が無料のため、何度も通って少しずつ見ているお客様もいるそうです。
3月1日には青山ブックセンター本店にて、リアス・アーク美術館学芸係長の山内宏泰さんと美術批評家の椹木野衣さんによるトークイベントも行われます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年2月19日 ]※インターネットミュージアムによる東日本大震災・ミュージアム関連情報サイト「MUSEUM ACTION」にも、2012年にリアス・アーク美術館を取材した
山内宏泰さんへのインタビュー記事があります。あわせてご覧ください。
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