「背景を理解した上で絵を見る」事の楽しさを教えてくれた『怖い絵』シリーズ。一般的な美術書は作家や地域、絵のスタイルなどで分類する事がほとんどですが、同書は「内容が恐ろしい絵」というくくり。おのずと展覧会でも16世紀から20世紀まで、さまざまな作品が展示されています。
多くの死体を描いたゴヤによる版画《戦争の惨禍》のように、見るだけで恐怖を感じる作品もありますが、むしろ興味深いのは、ちょっと見ただけでは恐ろしさが分からない作品。会場入口近くの《オデュッセウスに杯を差し出すキルケー》も、近づく男たちを魔術で動物に変えてしまう恐るべき魔女。先に犠牲になった豚が右下に転がっています。
兵庫展は1フロアでしたが、上野の森美術館は2フロア。会場に入るとまず2階に進み、その後に1階と、上野の森美術館の通常の順路とは逆の進み方で、「神話と聖書」「悪魔、地獄、怪物」「異界と幻視」「現実」「崇高の風景」「歴史」の6章による構成です。
会場風景
主要作品の前には「中野京子's eye」パネルも設置。なぜこの絵が怖いのが、歴史や神話の世界にも踏み込んで解説されます。
お目当ての《レディ・ジェーン・グレイの処刑》は会場の最後。251×302cmという巨大な作品です。描かれた場面については展覧会場でご覧いただくとして、ここでは「再発見」のエピソードを。1928年にテムズ川が氾濫しテートギャラリーが浸水。いくつかの作品とともに、この作品も消失したと思われていましたが、1973年になって収蔵庫の大きな台の下から見つかりました。
忘れられていたのは、アカデミズムの画風や主題が古めかしい事もありました。修復されてナショナルギャラリーに戻り、現在ではまた多くの人に愛されています。
東京展も10月27日に10万人を突破、平日でも入場まで待ち時間が出る盛況ぶりです。週末の開館時間が延長となり、土曜日は9時~20時、日曜日は9時~18時、平日は10時~17時です。(開館時間はさらに変更される可能性もあります)。
混雑状況は公式ツイートで確認できます。もちろんチケットは、事前の購入をおすすめいたします。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年10月6日 ]
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