マルセル・デュシャンの名前は知らない方も、普通の男子用小便器にサインをした作品「泉」については、どこかで目にした方もいるのではないでしょうか。デュシャンは1887年にフランスで生まれた芸術家。既製品(レディ・メイド)を用いた作品などで知られる、現代美術の先駆者です。
彼の功績に敬意を表してその名を冠したマルセル・デュシャン賞は、2000年に設立。インスタレーション、ビデオ、絵画、写真、彫刻などの造形および視覚芸術の分野でフランスのアートシーンを牽引する作家たちの活動を支援し、国際的に紹介しています。
今回の展覧会「フレンチ・ウィンドウ展」は、フランス窓をモチーフにしたデュシャンの代表作「フレッシュ・ウィドウ」にちなんだもの。展覧会のキーワードは「窓」で、「デュシャンの窓」「窓からの眺め」「時空の窓」「精神の窓」「窓の内側」の5ゾーンで構成されています。
最初のゾーンはデュシャンの主要作品。前述の「泉」「フレッシュ・ウィドウ」をはじめ、モナリザにちょび髭を落書きした「L.H.O.O.Q.」、4連のコートフックを床に置いただけの「罠」など、デュシャンの主要作品を紹介しています。
続いてマルセル・デュシャン賞の受賞作家など、フランスの現代作家たちの作品です。現代社会を比喩した社会性の強い作品が目につくなかで、筆者のイチオシはマチュー・メルシエによる透明な窓 《無題》。デュシャンの「フレッシュ・ウィドウ」のオマージュで、デュシャンの作品が窓の部分を黒皮で覆っているのに対し、メルシエの窓は枠も含めて全て透明です。作品は53階にある森美術館の窓際に展示されており、透明の窓越しに東京の街を贅沢に借景する、というユニークな趣向でした。
震災の影響で開幕が1週間遅れましたが、嬉しいことに会期は延長されて8月28日(日)までになりました。火曜日以外は22時まで見られますので、夜景と一緒に楽しんでもいいですね。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年3月25日 ]