おなじみの名品から知られざる逸品まで、
出光美術館が誇る日本絵画の逸品を展観する本展。会場は、絵巻・仏画・室町時代水墨画・室町時代やまと絵屏風・近世初期風俗画・浮世絵(初期と黄金期)・文人画・琳派・狩野派と等伯・仙厓という構成です。
館蔵品の紹介という事もあり、作品を知り尽くした黒田泰三学芸部長による「鑑賞のツボ」も、見どころのひとつ。描かれたモチーフや作品が持つエピソードを、平易な言葉で楽しく解説していきます。
会場入口から。館内各所の「鑑賞のツボ」は、楽しい試み第5章「近世初期風俗画 ─ 日常に潜む人生の機微を描く」の《江戸名所図屏風》は、江戸の町を描いた屏風としては現存する最古の作品です。老若男女、数多くの庶民の日常が、実に生き生きと描かれています。
日本橋の高札場(お上からの通達が書かれる場所)もありますが、立ち止まって見る人は皆無。江戸っ子の心意気も見てとれます。
第5章「近世初期風俗画」の《江戸名所図屏風》には、活気あふれる江戸の人々の姿が展示作品は前後期あわせて83件(同時展示中の工芸作品を除く)。うち重要文化財が11件、重要美術品も6件含まれています。
喜多川歌麿《更衣美人図》も、重要文化財です。落ちそうになった着物の衿を左手で押さえた艶っぽい仕草と、足下には解いた帯。美人画の大家・歌麿の魅力があふれます。
画面いっぱいの梅林にふたつの書斎が描かれた文人画は、田能村竹田《梅花書屋図》。こちらも重要文化財です。竹田は南宗画を研究し、温和な画風を得意としました。
第7章「黄金期の浮世絵」、第8章「文人画」前期展示の見どころのひとつが、酒井抱一の《風神雷神図屏風》。第9章「琳派 ─ 色とかたちの極致」で紹介されています。
各所で報じられていますが、ほぼ同時期に東京国立博物館でも俵屋宗達と尾形光琳の風神雷神図屏風が展示中。宗達が風神雷神図を描いた70~80年後に、光琳が模本を制作。さらに110余年後に、抱一が光琳本をもとにして本作品を描きました。
酒井抱一《風神雷神図屏風》左隻に白鷺、右隻に黒い鴉(カラス)を対照的に描いた作品は、長谷川等伯《松に鴉・柳に白鷺図屏風》。
作品の両端には不自然に傷んだ場所があり、じっくり見ると「備陽雪舟筆」という署名の痕跡や、「等伯」の印の跡が残っています。
これは、等伯の作品を改竄して、雪舟作品として扱っていた証拠。今では桃山画壇を代表する等伯ですが、江戸時代には驚くほど低い扱いだったことが分かります。
長谷川等伯《松に鴉・柳に白鷺図屏風》。改竄の跡は、左上の「備陽雪舟筆」が一番見やすいと思います。館蔵品だけで、これほど豊かに日本美術の流れを総覧できるのは、さすがに
出光美術館。4月5日(土)~5月6日(火・休)の前期と、5月9日(金)~6月8日(日)の後期で、ほぼすべての作品が展示替えされますが、前期に来館すると後期は500円で観覧可能です(一般、高・大生とも)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年4月10日 ]※本稿で紹介した作品は前期のみの展示です。