江戸時代末期を代表する浮世絵師の一人、歌川国芳。「北斎や広重は知っているけど、歌川国芳?」という方も、ご心配なく。実は国芳は、浮世絵の専門家からも十分な評価を受けていたとはいえません。その造形性や風刺精神は近年になって見直されており、若者たちからも大きな支持を受けるようになりました。2009年にはロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで、2010年にはニューヨークのジャパン・ソサエティー・ギャラリーで大規模な展覧会も開催され、大反響を呼んでいます。
歌川国芳は1797年生まれ。実は広重と同い年です。18歳でデビューしたものの、浮世絵師としては最初はヒット作に恵まれず、不遇の時代を過ごしていました。転機が訪れたのは31歳の時に描いた、水滸伝の武者絵シリーズ。閉塞感が漂っていた当時の空気を打ち破るような力感あふれる武者絵は、たちまち江戸っ子の心を捉えました。その後、三枚続きのワイド画面を生かしたダイナミックな作品を次々に発表。1853年の人気ランキングでは1位・歌川豊国、2位・国芳、3位・広重と記されています。
国芳の作品は、おどろおどろしい妖怪が画面いっぱいに描かれる妖怪画、擬人化された猫や金魚がユーモラスな戯画・狂画など、我々がイメージしている情緒的な浮世絵とはちょっと違います。ひと目で観客の心を捉えるべく考えられており、まさに超一流の商業デザイナーだったといえるかもしれません。
その一方で、実は国芳は大変な努力家でもあり、水滸伝がヒットした後も、武者が同じ顔になるのを恐れてスケッチを怠らなかったといいます。その一端が伺えるのが、今回初公開となった「国芳芝居草稿」。人物を描くことに対しての執念が伝わってくるような、恐るべき画力を見せてくれます。
「国芳芝居草稿」から。手ぬぐいにして売って欲しいです…「顔が平らだったから『ヒラヒラ』というあだ名があった」「猫が大好きで懐に何匹か入れたまま絵を描いていた」「典型的な江戸っ子で、火消し達とも仲がよかった」…。楽しい逸話も多い、歌川国芳。今回の展覧会は、武者絵や妖怪画からなる【前期 豪快なる武者と妖怪】(2011年6月1日~6月26日)と、戯画や洋風画からなる【後期 遊び心と西洋の風】(2011年7月1日~7月28日)という二部構成。前期と後期で全ての作品が展示替えされますので、両方とも見逃せません。
最後に、
太田記念美術館をご紹介します。渋谷区神宮前の太田記念美術館は、浮世絵専門の私設美術館。五代太田清藏が昭和の初めから半世紀以上に渡って蒐集した約1万2,000点を基に、昭和55年(1980年)に開館しました。さまざまなテーマによる展示活動を行うとともに、毎年、浮世絵研究助成事業を行うなど調査研究活動も盛ん。海外の美術館との交流も盛んに行っています。ラフォーレ原宿のすぐ裏という恵まれた立地ですので、ショッピングがてら足をお運びください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年5月30日 ]