時代とともに移る、アートの中心。歴史的にはギリシャ・イタリアからフランス、そしてアメリカへと流れていきますが、近年、目覚ましい発展を見せているのがアジアの美術。欧米とは異なる文脈から生まれる表現は、これまでの美術の枠組みに一石を投じています。
東京国立近代美術館、韓国国立現代美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポール、国際交流基金アジアセンターの共同プロジェクトとして開催される本展。東アジア、東南アジア、南アジアと幅広い地域を対象に、約140点の作品が並びます。
作品を理解する上で切り離せないのが、地域で異なる社会情勢。導入部では主だった出来事を年表で示すとともに、それに呼応した作品が展示されています。
全体は3章構成で、1章「構造を疑う」から。時代の流れが変わったのは1968年。世界中に学生運動が波及、近代化に対する疑念も大きくなる中で、アジアでは西洋由来の「美術」という概念も疑問視される事となります。
従来の手法を揶揄する作品として、絵画を燃やして川に流す、権威的なギャラリーの中に大衆酒場を設置する、など。直接的な表現は稚拙にも思えますが、逆に強い力も感じられます。
2章「アーティストと都市」。アジアの主要な都市は、近代化によって生活が激変。共同体の崩壊、貧困、民族間の対立など、さまざまな矛盾も露呈しました。
アートも美術館やギャラリーに留まらず、公共空間でのパフォーマンスへ。都市を舞台にした実験的な表現活動が、各地で競うように行われました。路上を清掃するハイレッド・センターや、全裸パフォーマンスのゼロ次元も、ここで紹介されています。
3章は「新たな連帯」。多くの芸術家集団が誕生したのもこの時期。美術を通して社会変革を目指した〈タイ統一美術家戦線〉、マルコス独裁政権に反発したフィリピン〈カイサハン〉のメンバーなどの作品を展示。シンガポールや韓国における木版画の社会運動は、今年から来年にかけて他の美術展でも紹介されます(「闇に刻む光 アジアの木版画運動 1930sー2010s」展 福岡アジア美術館とアーツ前橋で開催)。
社会における美術の意義をストレートに示した展覧会。アジアの現代美術に「とっつきにくい」印象を持っている方は、会場で用意されている10ページの作品解説ハンドアウト(無料)がオススメです。主要な作品の意図と、作品が生まれた社会的な背景が、分かりやすく解説されています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年10月9日 ]