何度も画号を変えるだけでなく、画風も大きく変わっている北斎。展覧会ではデビュー作から絶筆まで、6期に分けて作品を紹介していきます。
まずは、20歳でデビューした【春朗期】。勝川春朗を名乗っていた時代は、役者絵や挿絵本を得意にしていました。《鎌倉勝景図巻》は初公開の長巻。鎌倉から江ノ島への道中を描いたもので、穏やかな作風が印象的です。
続いて琳派の俵屋宗理の名を襲名した、36~46歳頃の【宗理期】。この時期に描いた細おもての楚々とした女性像は、「宗理美人」として人気を博しました。《津和野藩伝来摺物》は、全118点を4期に分けて公開。秘蔵されていた事もあり、美しい色が保たれています。
【葛飾北斎期】は46~50歳頃。肉筆の美人画は、少女のような雰囲気から大人の艶やかさが目立つようになります。「かな手本忠臣蔵」も初公開。あまり知られていませんが、北斎は忠臣蔵も数多く手掛けています。
「しん板くミあけとうろふゆやしんミセのづ」は、ユニークな組上絵です。紙のパーツを切り抜いて立体にする、いわばペーパークラフトです。
【戴斗期】は51~60歳頃。有名な『北斎漫画』はこの時期から出版が始まりました。絵画の技は肉筆で伝えるのが当たり前だった時代に、「描き方入門」として版本で広める手法は画期的といえます。1冊で完結する予定でしたが、人気を博した事から続編が次々に刊行。最終の15編は北斎没後の明治11年に出版されています。
61~75歳頃は【為一期】。その実力は冴えわたり、風景・花鳥・人物・武者と、ありとあらゆる物を描きました。「冨嶽三十六景」をはじめとする錦絵の揃物は、この時期。70歳を過ぎていた事には驚かされます。
最後が【画狂老人卍期】。肉筆が多いこの時期は、会場全体で最も見ごたえがあります。88歳で描いた《向日葵図》は、日本初公開。ヒマワリを描いた作品は、あまり例がありません。自らの表現を追い求める姿勢は、最晩年まで衰える事はありませんでした。
意外にも東京では十数年ぶりの開催となる、大規模な北斎展。約480件(会期中とおして)という膨大な作品で、北斎の全容をお楽しみいただけます。江戸絵画つながりで「奇想の系譜展」(東京都美術館:2/9~4/7)とのセット券も発売中です(販売は3/24まで)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年1月16日 ]
※会期中に展示替えがあります。