世界的に有名なガラス芸術作品のコレクター、鶴見輝彦氏によって蒐集された数々の優品を所蔵するみらい美術館。展覧会の度に来館者の目を楽しませてきました。本展ではみなとみらい学園の創始者でもある鶴見氏の目を通して選ばれたガラス芸術の魅力に迫ります。
展示風景
鶴見氏は歯科医で、歯科技工士の学校、みなとみらい学園の創設者という横顔を持っています。歯科技巧の焼成や研磨、着色技術は、ガラスの技法と共通しており、ガラス作品を通して美とは何かを問い、美しさを見抜く「審美」という言葉を大切にしていました。
私設美術館のコレクターの目は独自の蒐集視点や思いがあります。学生たちに美に触れる機会を作りたい。さらにその思いは横浜の人々にも広がり美術館設立を志します。一方、自宅でも傍らに置いて楽しんでいました。入口では氏のリビングに招かれたイメージで展示をしています。
エントランス風景
歯科医だった鶴見氏のコレクションの注目すべき点は、歯科技工士から転身したアルジー・ルソー(以下ルソー)の作品です。世界一のルソーコレクターとも言われ展示室には数々の作品が並びます。
アルジー・ルソー作品
フロアのガラスケースにはルソーのランプが展示。パート・ド・ベールというガラスを粉にして糊を加え型に詰めて、遠心力で鋳造する技法で制作しています。これは歯科技工の詰め物を作る方法を応用したルソー独自の技術です。歯科に携わる鶴見氏の心をとらえたのでしょう。
アルジー・ルソーのランプ
ガラスを薄く仕上げることができるので、光を通すランプにやわらかいニュアンスが加わり好評を博しました。それぞれのランプの表面にも着目してください。
アルジー・ルソーのランプ
中央のランプは左右2つのランプと比べて表面がツルツルしています。これは研磨によるもので、薄く仕上げた表面をさらに磨くという高度な技術によるもの。歯科技工士が詰め物を磨く技術にも通じます。
アネモネランプ 1925年 A・ルソー
こちらは自宅のリビングボードに飾られたランプをイメージした展示です。
鶴見輝彦氏のリビングボードをイメージした展示
壁面のガラスケースにはガレ工房の大型作品が並びます。鶴見氏は大型で華やかな色、草花文様を好みました。
ガレ工房作品
趣向の裏には、難解に思われがちなガラス作品を学生や訪れる人々にわかりやすく伝えたいという思いもありました。そのため誰が見てもわかるということにも重きが置かれました。
こちらは鶴見氏の玄関に飾られていた最大の大きさのランプです。細やかな藤の花と美しい青の発色、本体とシェードをつなぐ枝は日本画ようです。
藤文ランプ 1918-1931年 ガレ
作品入手のエピソードもあります。歌手のロッドスチュアートもこのランプを強く欲していたそうです。最終的に鶴見氏の元にやってきました。
夾竹桃文ランプ 1918-1931年 ガレ
歯科医の目が選んだガラス作品は、歯科医療を目指す学生たちの審美眼を養うため併設美術館に納められました。入学式には華やかな作品で出迎え、卒業式も作品で送り出します。在学中に養われた審美眼は多くの人に美しい歯をもたらしていることでしょう。
展示風景 天井ランプにも注目
そして訪れる私たちにも「美とは何か」を問いかけ芸術に親しむ機会を与えてくれています。
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2024年2月3日 ]
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