同時代の象徴主義画家の中でも際立った存在で、19世紀末の芸術や文学に大きな影響を与えた画家、ギュスターヴ・モロー。1826年にパリで生まれました。
建築家の父ルイ・モローと、音楽が好きだった母ポーリーヌのもと、芸術に恵まれた環境で育ったモロー。特に母に対しては特別な思いがあり、「この世で最も大切な存在」と表現するほど。母子の絆は、妹、カミーユ(1827-1840)が13歳で早世したことを機に、ますます強いものとなりました。
本展では、代表作《出現》や《エウロペの誘惑》を含む油彩画や水彩画などのほか、日本初公開となるポーリーヌに宛てた手紙など、約70点を紹介。生涯独身を貫き、アトリエにもめったに人を寄せ付けなかった謎多き画家、モローの素顔に迫ります。
ポーリーヌともう一人、モローにとってかけがえのない女性がいました。恋人、アレクサンドリーヌ・デュルー(1836-1890)です。二人は結婚をしませんでしたが、近くのアパルトマンに住み、30年近くもモローはデュルーに惜しみない愛情を注ぎました。
しかし、1884年に最愛の母が他界。1890年には病気のためアレクサンドリーヌも死去と、最愛の女性を次々と喪います。モローは「修復不可能な大惨事後のような落胆に打ちひしがれ」と、深い悲しみに襲われました。《パルクと死の天使》は、アレクサンドリーヌの死後に描かれたものです。
ポーリーヌやアレクサンドリーヌなど、穏やかで優しい女性を愛したモロー。しかし、描かれた作品は、男性を誘惑する女性たちでした。代表作《出現》に描かれたサロメは、モローが描いた数々のファム・ファタルの中でも、突出した存在でした。
展覧会には、最高神ゼウスの欲望の対象となった女性、エウロペやレダなど、男性からの誘惑により数奇な運命をたどった女性たちを題材とした作品も、展示されています。
モローが描いた、数々のファム・ファタル。その源泉は、モローが生涯をかけて愛した二人の女性、母ポーリーヌとアレクサンドリーヌ・デュルーの姿があるように思えます。
本展終了後、大阪と福岡に巡回します。
会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2019年4月5日 ]