年末年始の三井記念美術館といえば国宝《雪松図屏風》。昨年は「動物アート」、一昨年は「バードウォッチング」と、展覧会はいつも雪松図にあわせたテーマを立てています。
今年は令和改元にちなみ、天皇に関係する品々を展示。「三井家による明治天皇への献茶」が中心になります。
まずは皇室の菊の紋章にちなんで、菊をデザインした茶道具や工芸品から。《桐木地菊置上茶箱》には、胡粉で菊の文様が見事に盛り上がっています。
国宝の茶室「如庵」を再現した展示ケースには、国宝の志野茶碗《銘卯花墻》も展示。日本で焼かれた茶碗で国宝に指定されているものは、わずか2点のみ。うち1点がこの「志野茶碗 銘卯花墻」です(もう1点はサンリツ服部美術館蔵の本阿弥光悦《白楽茶碗 銘不二山」》)。床にかかる和歌もお見逃しなく。後水尾院による書です。
展覧会メインは展示室4。「明治天皇への献茶」関係の美術品が並びます。
献茶が行われたのは、明治20年(1887)の京都博覧会。「新古美術会」と題し、京都御所御苑内で開催されました。
ちょうど孝明天皇の20年祭のため京都に滞在中だった明治天皇皇后両陛下は、博覧会に行幸。会場の一角には抹茶と煎茶の献茶席が設けられ、北三井家九代の高朗(たかあき)と十代の高棟(たかみね)が抹茶席の亭主になり、表千家の碌々斎の点前で献茶が行われました。
展覧会では、茶席で用いられた道具が紹介されています。永樂和全の茶碗《赤地金襴手鳳凰文天目》、藤原定家の書《小倉色紙「うかりける…」》、明時代の水指《祥瑞松竹梅花鳥文胴締水指》など、いずれも見事な品々です。ちなみに国宝《雪松図屏風》は、六畳囲い屏風として用いられました。
この展示室には、興味深い椅子も。新橋~横浜間の鉄道開業式で明治天皇が使われた御休所用の御召椅子で、初公開となります。北三井家八代・高福(たかよし)は鉄道開業式当日、新橋駅で東京市中の商人総代として挨拶をしており、御召椅子が三井文庫に伝わっているのも、この関係によるものと思われます。
続いて、帝室技芸員の作品。皇室が美術・工芸家を保護する制度である帝室技芸員は、明治23年(1890)に制定。三井記念美術館では柴田是真、竹内栖鳳、安田靫彦らの作品を所有しています。今回は小さな作品が展示されています。
最後の展示室には、三井家当主が描いた絵画も紹介。もちろん、師匠の手が全く入っていないとは言い切れませんが、それを差し引いてもなかなか見事な作品が並びます。
国宝《雪松図屏風》の展示は恒例といえるので、当初は図録を作る予定はなかったそうですが、企画を進めるうちにどんどん充実。当日の茶会の模様の解説を含め、63ページの立派な図録も出来ました(1,500円)。ミュージアムショップで販売中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年12月13日 ]