女の子の成長を祈る、ひな祭り。人日・上巳・端午・七夕・重陽の五節句のひとつで、そもそもは三月の初めの巳の日である「上巳の節句」が、3月3日に固定化されたものです。
この日が、男女一対の雛人形を飾る「雛節供」になったのは、江戸時代に入ってからです。付属する人形や雛道具の種類は徐々に増え、今日に伝わるひな祭りになりました。
今回の展示は、まずは雛人形から。冒頭の市松人形は、重要無形文化財保持者(人間国宝)である平田郷陽が若き日に手がけたものです。
他の雛人形は、京都の老舗人形店である丸平大木人形店が明治時代による制作です。女雛の豪華な宝冠が目を引きます。
丸々とした体躯の愛らしい人形は、御所人形。煙草で一服する《御所人形 嶋村》は、初出品となります。
美しい人形もさる事ながら、今回の展覧会で特に注目していただきたいのが、雛道具。虎屋コレクションの雛道具は種類が多く、その質と量は国内屈指といわれます。
道具の多くは、上野池之端の七澤屋(ななさわや)製。漆塗りに金蒔絵と、とても庶民には手が届かない高級品です。
多くの調度に描かれた模様は、牡丹唐草文です。唐草文の蔓は永続性、牡丹は富貴を表しているので、あわせて富の永続を示しています。漆器が目立ちますが陶磁器やガラス器などもあり、それぞれが実際の器と同じような意匠が施されています。
ユニークな雛道具として、楽器もあります。月琴や琵琶のほか、オーケストラで見るシロフォンのような楽器は、「箱木琴」などと呼ばれる座奏用の木琴です。
独立ケースでは、台所道具がずらり。1873年(明治6)のウィーン万博には「子供の玩具類」のカテゴリで、七澤屋の台所道具が出品された事が分かっており、これらもそれに類するものです。「玩具類」とはいうものの遊ぶためのものではなく、鑑賞用の高級品です。
今回は展示室2で、根津美術館蔵の婚礼調度品を紹介しています。実際の婚礼調度と、極小の雛道具を見比べてもらおうという趣向。扉の裏にまで絵を描くなど、婚礼調度でも「やりすぎでは?」と感じられる意匠が、雛道具でもビッチリ。職人の執念を感じてしまいます。ぜひミュージアムスコープをご持参ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年2月26日 ]
※2/29~3/16まで臨時休館。開館日程の最新情報は、公式サイトをご覧ください。
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