ドライで冷たい誘惑の眼差し
ドイツ・ルネサンスを代表する画家であり、教科書に載っている宗教改革のマルティン・ルターの肖像画で知られるルカス・クラーナハ。
宗教改革からちょうど500年の今年、彼の芸術の全貌を紹介する日本初の大回顧展が大阪・中之島の国立国際美術館で開催されています。
ウィーン美術史美術館、昨年同展覧会が開催された国立西洋美術館、そして国立国際美術館の強力タッグにより、世界13カ国から集まった約100点で展観する史上最大級のクラーナハ展です。
ウィーン美術史美術館所蔵、メインビジュアルの《ホロフェルネスの首を持つユディト》は、3年に及ぶ修復を経ての公開。
ルカス・クラーナハ(父)《ホロフェルネスの首を持つユディト》 1525/30年頃 ウィーン美術史美術館 © KHM-Museumsverband
16世紀、神聖ローマ帝国で宮廷画家として頭角を現したクラーナハは、著名人や政治家、権力者とも知己を得て、当時の記録用「メディア」として彼らの肖像画を大量生産します。
ルカス・クラーナハ(父)《ザクセン公女マリア》 1534年 リヨン美術館 © Photo Josse / Scala, Florence
親友であったルターもその例外ではなく、多数の肖像画を描き、彼の思想を視覚化して伝え、宗教改革の後押しをする役割も担っていました。
ルカス・クラーナハ(父)《マルティン・ルター》 1525年 ブリストル市立美術館 © Bristol Museums, Galleries and Archives
クラーナハは経営者としても非常に長けた人物で、効率化のために大きな工房を作り、弟子や息子とともに作品を分業で制作。仕事の速さから「最も素早い画家」と呼ばれました。
さらにより効率を上げるために、書店や薬局、印刷所なども多角的に経営。
宮廷画家になってわずか数年後の1508年にザクセン選帝王フリードリヒ賢明公から授かった、翼を持つヘビの紋章は、自らの工房のトレードマークとし、ブランド化に活用しました。
クラーナハの代表的な作品といえば、独特の雰囲気を持つ裸婦像。
神話や聖書などを題材に、ある意味隠れ蓑にしながら官能的な女性を描き、貴族の男性たちへの貢物にもしていたとか。
ルカス・クラーナハ(父)《泉のニンフ》 1537年以降 ワシントン・ナショナル・ギャラリー © Courtesy National Gallery of Art,Washington
こちらはイタリア・ルネサンスの一般的な美の女神ヴィーナスのイメージとは異なる、クラーナハのヴィーナス像。
ルカス・クラーナハ(父)《ヴィーナス》 1532年 シュテーデル美術館、フランクフルト © 2016 DeAgostino Picture Libars / Scala, Florence
体の角度、体型、顔と身体のバランス、見れば見るほど違和感が増します。
着衣の女性さえ、不思議なくらい裸婦より官能的で挑発的です。
英雄ヘラクレスでさえ、こんな風にメロメロに。
ルカス・クラーナハ(父)《ヘラクレスとオンファレ》 1537年 バンベルク財団、トゥールーズ © bpk / PMN - Grand Palais / Mathieu Rabeau
女性の冷めた眼差しや表情によって、女性の力やたくらみである「誘惑」を表現することで、クラーナハは男性たちへのいましめ、警告を行い、性差を超えたイメージの力を表現しました。
ルカス・クラーナハ(父)《不釣り合いなカップル》 1530/40年頃 ウィーン美術史美術館 © KHM-Museumsverband
彼に影響された20世紀の画家も多く、ピカソや、セルフポートレートで知られる森村泰昌氏の作品も関連作品として展示されています。ぜひ見比べて見てください。
ルカス・クラーナハ(父)《正義の寓意(ユスティティア)》 1537年 個人蔵
ちょっぴり不気味、なんだかよくわからない。
妖艶だけど、濃厚というよりはドライで冷たい誘惑の眼差しに捉えられ、あっという間に独特の世界に引き込まれてしまう展覧会です。
展示会場の最後にあるミュージアムグッズコーナーには、ユディトの帽子を被ったシュタイフのテディベアが。
ユスティティアの首飾りをモティーフにしたバックやTシャツも素敵だなと思いました。
日本ではあまり知られていないクラーナハ、もっと深く知りたい!と思うこと必至で、そのための関連イベントも多数予定されています。ぜひ足を運んでみてください。
担当学芸員によるギャラリートーク
2月25日(土)、4月8日(土)14時から
先着90名(要観覧券)
当日13時半から聴講用ワイヤレス受信機貸し出し
アーティストトーク
3月25日(土)14時〜15時30分
坂本夏子(画家)
先着130名(要観覧券)
当日10時から整理券配布
エリアレポーターのご紹介
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白川瑞穂
関西在住の会社員です。学生の頃から美術鑑賞が趣味で、関西を中心に、色々なジャンルのミュージアムに出かけています。観た展示を一般人目線でお伝えしていきます。
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会場
| 国立国際美術館 |
会期
|
2017年1月28日(土)〜4月16日(日)
会期終了
|
開館時間
| 10:00~17:00 (入場は16:30まで) 金曜日・土曜日は20:00まで(入場は19:30まで)
※7~9月の金曜・土曜は21:00まで(入場は20:30まで) ※開館時間は臨時に変更する場合があります。 |
休館日
| 月曜日、3月20日(月・祝)は開館、翌日(3月21日)は休館 |
住所
| 〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島4-2-55 |
電話
|
06-6447-4680(代)
|
公式サイト
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http://www.tbs.co.jp/vienna2016/
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料金
| 一般 1,600(1,400)円 大学生 1,200(1,000)円 高校生 600(500)円 ※( )内は前売および20名以上の団体料金 ※中学生以下は無料 ※心身に障害のある方とその付添者1名無料(証明できるものをご提示願います) ※前売券は、11月21日(月)から2017年1月27日(金)までの販売 |
展覧会詳細
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国立国際美術館「クラーナハ展 ― 500年後の誘惑」 詳細情報
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