中村屋サロン美術館「中村彝 生誕130年記念 ~ 芸術家たちの絆展 ~」
撮影・文 [エリアレポーター]
松田佳子 / 2017年4月23日
新宿中村屋といえば、今では中華まん、インドカリーなどのお菓子や食品を扱う老舗の会社ですが、明治から大正にかけて、多くの芸術家たちが集う「中村屋サロン」として花開いた時代をご存知でしょうか。
中村屋サロン美術館 外観
中村屋の創業者、相馬愛蔵、黒光(こっこう)夫妻は芸術への深い理解を持ち、荻原碌山をはじめとして多くの芸術家たちを支援していました。そのうちのひとりに中村彜(つね)がいます。今回の展覧会は、中村彜の生誕130年を記念して彼の友人たちとの交流がテーマとなっています。
中村屋サロン美術館 入口
中村彜は、1887年水戸市に生まれ、結核を病みながら、37歳で没した洋画家です。相馬夫妻の庇護のもと、中村屋の裏にある画室に住み、相馬家の長女、俊子をモデルに数多くの作品を制作します。
中村彝《小女》1914年 株式会社中村屋蔵
彜は俊子との結婚を望みましたが、叶わず中村屋を去ります。こちらは、身を乗り出してポーズをとる俊子と力強いタッチで生き生きと描く彜の2人の心の通い合いを感じるような作品です。
この展覧会の中では、友人同士モデルになり合い、作品を制作しているものが何点かあります。友の真の姿を知ればこその人物像に迫っていて大変興味深いものでした。
堀進二《中村彝氏像》制作年不詳 株式会社中村屋蔵
勢い込むような姿勢で作品に向かう彜の制作中の様子が偲ばれるような彫刻です。
曽宮一念《桑畑》1912年 常葉美術館蔵
曾宮一念から洲崎義郎への手紙も展示され、その中には彜について触れた部分が多くあり、彜を心配し気遣っている友情を読み取ることができます。
彜の代表作である《エロシェンコ氏の像》(今回は出品なし)と同じアトリエで競作した鶴田吾郎《盲目のエロシェンコ》も出品されていました。それぞれがモデルに対して取る位置の違いが作品の個性となっていて面白いものでした。友人同士が同じアトリエでどんな会話を交わしたのだろうかと想像するのも楽しいものです。
才能豊かで将来も嘱望された中村彜の短い生涯は惜しまれるものではありますが、37年の人生を多くの人との交わりの中で濃密に生きたのだと感じることができる展覧会でした。
エリアレポーターのご紹介
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松田佳子
湘南在住の社会人です。子供の頃から亡き父のお供をして出かけた美術館は、私にとって日常のストレスをリセットしてくれる大切な場所です。展覧会を楽しくお伝えできたらと思います。
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