会場に入ってすぐ、2つの鮭の絵が並べられています。
明治期に描かれた高橋由一の『鮭』と、平成の磯江毅の『鮭 ─ 高橋由一へのオマージュ ─ 』です。
高橋由一《鮭》、制作年不詳、油彩・キャンバス、山形美術館寄託
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磯江毅《鮭 ─ 高橋由一へのオマージュ ─ 》、2003年、油彩・板
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絵画はいつも目の前にある現実との対決にあったように思えます。
写実のための必要品だった絵画は、正確に記録できるカメラが発明されることによりその意義が問われてきました。
「リアル(写実)のゆくえ」では、日本洋画の先駆者と言われる高橋由一からはじまり、現代までの写実絵画を時系列に鑑賞することができます。
西洋から油絵が伝わったとき、遠近感、光と影など、今まで見たことのないリアルな描写に人々は驚いたといいます。
由一の『鮭』は、お歳暮に贈られる新巻鮭をリアルに描くことによって、本物の新巻鮭を贈ることと絵を贈ることは同等に価値があるということを証明したかったのかもしれません。
西洋から入ってきた油絵は、西洋的なリアルさを追求したとはいえ、日本人の感性というフィルターを排除することはできません。
原田直次郎《神父》、1885年、油彩・キャンバス、信越放送(株)
人物を写実的に描くことは、正確に写し取る以上にモデルの人物像に迫るということでもあります。
それは次第に「そっくりに描く」というリアルさから、精神性を重視するように傾いていった岸田劉生の人物画へとつながっていきます。
岸田劉生《近藤医学博士之像》、1925年、油彩・キャンバス、神奈川県立近代美術館
絵画においてのリアルとは、画家の目と心を通して届けられる画像情報なのかもしれません。
長谷川潾二郎《猫》、1966年、油彩・キャンバス、宮城県美術館
カメラどころか、今では誰もが身近にスマホを携帯し、いつでも気楽に現実を切り取ることができる時代です。そんな時代だからこそ、現代の作家たちの中にはスーパーリアルに心を突き動かされるのかもしれません。
上田薫《なま玉子C》、1976年、油彩・アクリル・キャンバス、東京都現代美術館
写真なのか、絵画なのか。画家の観察力と描写力に驚かされます。
三浦明範《鮭図―2001》、2001年、シルバーポイント・黒鉛・墨・パネル、作家蔵
画家の目と心で見た現実への追及は、私たち観る者を圧倒し、今ここにないものを想像し、感動を与えてくれます。
この展覧会では、作品の横に作家たちの文章や言葉が添えられています。それらは、作家たちが目の前にあるものをどのように捉え、表現しようとしていたのかを、とてもよく伝えています。それは制作へのリアルを知ると言うこともできるでしょう。
この展覧会は、足利市立美術展(6月17日(土)~7月30日(日))、碧南市藤井達吉現代美術館(8月8日(火)~9月18日(月))、姫路市立美術館(9月23日(土)~11月5日(日))にも巡回します。
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松田佳子
湘南在住の社会人です。子供の頃から亡き父のお供をして出かけた美術館は、私にとって日常のストレスをリセットしてくれる大切な場所です。展覧会を楽しくお伝えできたらと思います。
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