大きな画面に激しい筆跡とは裏腹に、小柄な女性。
インドネシアの現代アーティストであるアイ・チョー・クリスティンが目の前に現れた時は、ギャップに驚きました。
日本の美術館で初めて大規模な個展が開催されています。
テキスタイルデザイナーとしてキャリアを積み、2000年ごろから作家として活動を本格化させた彼女。
油絵、版画、大型のインスタレーション、そしてソフトスカルプチャー(布や糸のような繊維や、ゴムなどの柔らかい素材で制作された彫刻や立体作品のこと)など、新作を含め約50点の作品が並びます。
《転がるようにして家にたどり着いたら》2012 油彩、カンヴァス/170×200 個人蔵 © Ay Tjoe Christine, courtesy of Ota Fine Arts
展示風景
《Lama Sabakhtani #01》2010 木、金属、ワイヤー、真鍮玉 / 430x250x400 作家蔵 © Ay Tjoe Christine, courtesy of Ota Fine Arts
この写真の作品は、十字架にかけられたイエス・キリストからインスピレーションを受けています。ギロチンが落ち、まわりに吊られている真鍮玉が揺れる様子は、ぶるっ、寒いものが走ります。
アイ・チョーは、「どんなに酷くつらいことがあっても乗り越えることが必ずできる」と解説します。十字架にかけられたイエスの復活を意味しているのでしょうか。処刑された場面だけを連想していました。アイ・チョー自身はキリスト教徒なので、「復活」を示すことは、当然の流れなのかな、憶測ですが。
今回の展覧会で、私が魅かれたのは、《ルカ福音書の有名な1節 #1》。
放蕩息子が家を勝手に飛び出し、散財した挙句に家に戻るのですが、そんな息子でも、父親は愛情をもって迎えるという話が題材です。
壁に並ぶ小さな立体作品。それは「帰るための目印」を表現しています。
展示風景
この作品には、「必ず帰る場所がある」という意味が込められています。
「目印」から、生きる上での知恵と、懸命さが見えてきます。
祖国インドネシアに暮らしながらも、彼女は、民族としても、キリスト教徒としても少数派に属するため、差別や、つらい経験をしてきたそうです。
帰る場所(安らげる場所)は、アイ・チョー自身が一番求めてきたものであり、求めているものに見えます。
弱さと強さが見え隠れしていたり、未来への光の中に、影がつきまとっていたり・・・どの作品にも一貫して「人間性を問う」ことが底辺にあります。
作品の多くは、キリスト説話に基づいているため、キリスト教を知らないと理解が難しいかもしれません。
その上、彼女が暮らすインドネシアのことも、私はほとんど知らない・・・。
今更ながら気づきます。知らないというより、しっかり目を向けたことがないかもしれません。
彼女は、呑気に生きる私に一石投じてくれました。
展示風景
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カワタユカリ
美術館、ギャラリーと飛び回っています。感覚人間なので、直感でふらーと展覧会をみていますが、塵も積もれば山となると思えるようなおもしろい視点で感想をお伝えしていきたいです。どうぞお付き合いお願いいたします。
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