東京都庭園美術館の建物は、1933年に建てられたアール・デコ様式で有名な旧朝香宮邸です。そんな建築ならではのアール・デコの展示は、当時の雰囲気を味わいながらの素敵な展覧会です。
今回は、アール・デコの服飾や調度品、絵画、彫刻の中でも、特に「エキゾティック×モダン」に着目しています。
フランス発祥のアール・デコは1920年代から始まったデザイン様式。直線的ですっきりとしたモダンさが特徴です。
この当時は世界的にジャズが流行り、黒人プレイヤーがアメリカから渡欧してきました。
また、アジアやアフリカなどの独特の文化が植民地から入り込んできました。
それまでの西洋文化と異なるエキゾチズムが、アール・デコのデザインのヒントともなっていました。
展示風景 左手前 ポール・ポワレ カフタン・コート《イスファハン》
ポール・ポワレは、コルセットから女性を解放したデザイナーですが、モードの世界に異国情緒を取り入れたひとりでもあります。
着物のような打ち合わせやなど、東洋を意識したシルエットや布地を使い、パリの女性たちを魅了しました。
ヴァン・クリーフ&アーペル 左《中国風の卓上時計》 右《中国人奇術師の懐中時計》
ヴァン・クリーフ&アーペルやショーメといった高級宝飾店では、時計やジュエリーのデザインにエキゾティックなモチーフを使いました。
これらを所有する上流社会の人々には「モダン」なデザインとして受け入れられていたようです。
右の《中国人奇術師の懐中時計》はボタンを押すと奇術師の腕が上がり、時・分を指すのだそうです。動いているところを見たかったです。
展示風景 正面 ジャン・デュナン《栗の木》
ジャン・デュナンは、渡仏した漆職人の菅原精造から技術を学びました。
2階広間に飾られた《栗の木》という作品は、この建物の室内装飾ともよく調和しています。
ポール・コラン《シャンゼリゼ劇場 バル・ネーグル》
黒人ジャズ・プレイヤーと共に注目を浴びていたのが、黒人ダンサーたちでした。
その中でもジョセフィン・ベイカーは「黒いヴィーナス」と称えられるほどの人気を博しました。
また、黒人ピアニストを恋人にしたイギリスの資産家ナンシー・キュナードは、人種差別と向き合うことになりました。
こちらの展示室では2人の女性に注目しています。
ルネ・ブルー デザイン / エドモン・タピシエ タペストリー原画《肘掛け椅子》
こちらの肘掛け椅子は、アフリカのラクダとインドシナの象そしてフランスを表す鶏があしらわれています。南国情緒あふれた色彩豊かな美しさの中に、諸外国を統治していたフランスのナショナリティが象徴的に表現されていました。
手前 フランソワ・ポンポン《シロクマ》
第一次大戦により惨禍を受けた野生動物を保護しようと、植民地からたくさんの動物が運ばれてきました。それは近代動物園の始まりでもあり、フランソワ・ポンポンをはじめとした動物彫刻家たちは動物園での観察が制作の参考になっていたそうです。
今まで、デザインの一形式としてアール・デコを捉えていたのですが、今回の展示からその着想の中にエキゾティックという重要なキーワードがあったことを学べました。
第一次世界大戦の傷跡や植民地との関係が、政治の世界だけでなく文化へも大きな影響を与えていたことが分かり、アール・デコとは何だったのかという深い理解につながりました。
都心の庭園の中にそこだけ時が止まったように佇む旧朝香宮邸で、異国情緒あふれるアール・デコの世界に浸れる素敵な展示でした。
エリアレポーターのご紹介
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松田佳子
湘南在住の社会人です。子供の頃から亡き父のお供をして出かけた美術館は、私にとって日常のストレスをリセットしてくれる大切な場所です。展覧会を楽しくお伝えできたらと思います。
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