町田市立国際版画美術館「パリに生きた銅版画家 長谷川潔展」
文 [エリアレポーター]
新井幸代 / 2019年3月8日
開館当時、日本で唯一の版画を中心とした美術館として設立された、町田市立国際版画美術館。
現在、「パリに生きた銅版画家 長谷川潔展 ‐はるかなる精神の高みへ‐」が開催中です。
企画展入口
通常の銅版画では、銅版を引っ掻いた凹みにインクが入り、それをプレスして移し取ることで刷りますが、メゾチントでは全体にまくれを作ってから、それを削ることでインクがのらない部分を作っていきます。
つまり、一般的な描き方とは逆に、全体の色を濃くしてから薄い部分を作っていきます。
1922年頃からのメゾチント制作の初期の頃では、交差線による下地を用いていたのが特徴です。
刷り上がりに際して、あえてその線が残るように薄暗い仕上がりになっています。
長谷川潔《摩天楼上空のポアン・ダンテロガシオン号〔ニューヨーク上空の〕》1930年 メゾチント
メゾチントは英語で半調子という意味ですが、長谷川はフランス語でマニエル・ノワール(黒の技法)と呼ばれることを主張したそうです。
1950年代末から60年代末に制作された静物画では「黒の技法」にふさわしい、深遠な漆黒の世界が表現されています。
長谷川潔《窓辺の花瓶》1952年 メゾチント
加えて、静物画に描かれた対象物には、小鳥は長谷川自身を、魚は物質を、といったようにそれぞれ意味が与えられているそうで、画面の色調に相乗した哲学的作品になっています。
長谷川潔《ジロスコープのある静物画》1966年 メゾチント
たとえ、絵に描かれた物の意味が分からずとも、心の深い静かな部分に訴えかけてくる何かがありました。
両者の制作年代の間には、風景はドライポイント、レース模様はアクアチント、コップに挿した枯れ草はエングレーヴィングなど、主題を通して表現したいものが活きるように、それぞれの銅版画技法が選択されている印象を受けました。
長谷川潔《一樹(ニレの木)》1941年 ドライポイント
長谷川潔《二つのアネモネ》1934年 アクアチント
長谷川潔《コップに挿した枯れた野花》1950年 エングレーヴィング
また、本展では長谷川が渡仏する以前に日本で描いた作品から晩年の作品までに加えて、フランスで交流のあったシャガールやピカソ、長谷川が影響を受けたルドン、更には長谷川に影響を受けた駒井哲郎などの作品も展示されています。
一部に多色刷り、手彩色の作品はありますが、モノクロの静かな世界観が心地良く、心を静めてくれる展示でした。
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