現代陶芸の巨匠ニーノ・カルーソの没後世界初の回顧展、代表作92点が並ぶ会場は静かで穏やかでありながら、モダンで自由を感じる気持ちの良い空間が広がっていました。
1950年代中ごろから陶芸家として活動を始めたカルーソは、紐作りで成形し、ざらついた質感を生み出す釉薬が特徴の「アルカイック」シリーズを制作します。
《共蓋壺》1963 楽焼 京都国立近代美術館蔵
《壺-人体》1959 楽焼
その時代に制作された造形物は、一見よくある形にも思えるのですが、観ているうちに独特な個性を感じます。
決して奇をてらう形ではないのに初めて出会う、でも懐かしい。不思議です。
内側は紐状の跡が一目でわかる仕上げで、それが反対に作家の手を感じさせ、親近感にも変わります。
1964年に日本で初めての国際陶芸展「現代国際陶芸展」で発表された作品も展示されていました。
当時それをみて彫刻家柳原義達は「日本陶芸の敗北」というタイトルで批評文を投稿したそうです。
《進化2》1962 鉄、木
その後カルーソは、陶以外にも鉄やセメントなど異素材を実験的に扱います。
鉄板の断片など鉄くずで制作された作品が数点紹介されていました。
粗く仕上げた溶接部分は陶の仕上げ方と共通していて、当時のカルーソの作品に対する考え方を知ることができます。
技術面以上に、彼自身のルーツであるシチリア、地中海文明を意識させる神話性、象徴性をテーマとした表現に重きをおいていたそうです。
《王と王妃》1979 テラコッタ
1960年半ば以降には、カルーソは発砲スチロールでカットした原型に鋳込みする技法で作品を作るようになります。
この手法は、陶磁器業界にとっては全く新しいものでした。
またそれらを上下左右に組わせることにより、彫刻や壁画といった作品を発表します。
発泡スチロールで型取られたと知ったからか、なぜか軽さを感じます。
細かいラインや波の形などの具合が、作品本体を削って作ったものとは全く異なり面白味を感じます。
表面は発泡スチロールの細かい粒粒が映ったような跡もあり、今までみたことのない陶の風合いに惹きつけられました。
本展を通して、カルーソが一貫して自身のルーツ、彼に流れる血の一滴を作った源を探るような壮大なテーマに向かった「陶芸家」であったことを知ることができます。
ただ1つ残念なのはここがシチリアではないこと。もしこれらを現地でみることができれば、より彼の作品を味わえるのでは……。新年早々大きな夢が生まれてしまいました。
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カワタユカリ
美術館、ギャラリーと飛び回っています。感覚人間なので、直感でふらーと展覧会をみていますが、塵も積もれば山となると思えるようなおもしろい視点で感想をお伝えしていきたいです。どうぞお付き合いお願いいたします。
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