Bunkamura ザ・ミュージアムでは、「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」展が開催されています。
2017年に同ミュージアムで開催された日本初の回顧展では、8万人以上の来場者を記録しただけに、今回も期待が高まります。
ライターの死後、全作品のアーカイブ化に取り組んでいるソール・ライター財団ですが、未整理のまま残された作品はカラー写真だけでも8万点以上、加えて絵画や資料類などもあり、アーカイブの完成までに少なくとも10年かかると言われています。
本展では、整理中に発掘された未発表作品が多数含まれることも見所の1つです。
展示は2部構成になっています。
第1部:ソール・ライターの世界
第1部では、モノクロ、カラーの代表作をはじめとする約130点により、ライターの世界観に触れることができます。
左から《無題》1955年頃、《足跡》1950年頃、《赤い傘》1958年頃
"カラー写真のパイオニア"と称されただけあって、モノクロ写真の印象が殆どありませんでしたが、本展で覆りました。晴れた日の光や、雨の日の湿度などは、カラー写真以上に感じられました。
左から《無題》撮影年不詳、《5番街》1970年代
一方、ファッション誌のための写真は、現行の雑誌に使われていても気付かない位に時代を感じさせない作品でした。これが60年ほど前に撮られたとは、信じられません。
左からキャロル・ブラウン 《Harper's BAZAAR》1959年頃、《ファッション・テスト》1960年代、《Harper's BAZAAR》1960年代
会場にはライターの言葉も掲げられています。
例えば、「私の好きな写真は、何も写ってないように見えて片隅で謎が起きている写真だ。」という言葉を介して作品を見ると、日常に潜む"謎"に対して、ライターが優しい眼差しの持ち主であったろうと想像できます。
左から《蝶々を吊す》1960年代、《労働者》1950年代
第2部:ソール・ライターを探して
第2部では、アーカイブ化の成果である未発表作品や資料を通して、ライターの創造の背景を探ろうとするものです。
カラーリバーサルフィルムを用いて撮影されたカラー・スライド数万点は、技術的・経済的理由からほとんどプリントされませんでした。
スライド・プロジェクションのコーナーでは、未発表作品が世界初公開となります。
ライターがプロジェクターを使ってスライド・ショーをしていたことから、デジタル再現での追体験を楽しむことができます。
デジタル展示:ライターのスライドプロジェクション
第1部での写真では、被写体との距離が近くて遠いものであったのに対し、自身や家族、二人のミューズ(妹デボラ、愛するソームズ)のポートレートは、息づかいまで聞こえるような心的距離を感じました。
展示風景
それは、愛猫たちの写真にも言え、人間を相手にしているかのような印象を受けました。
展示風景
ライターが住んでいたアパートの壁を再現したコーナーでは、ライター、ソームズが描いた絵の他に、お気に入りの時計が展示されています。
ソール・ライターが住んでいたアパートメントの壁の再現展示風景
本展のために久しぶりにネジを巻いた時計は、徐々に遅れだしており、会期中に止まってしまうだろうとのことでした。
展示室が静かになった瞬間のみ聞き取れるほどひっそり時を刻む音に耳を澄ませていると、ライターの写真に漂う懐かしくも新しくも感じられる不思議な時間を思わずにいられません。
エリアレポーター募集中!あなたの目線でミュージアムや展覧会をレポートしてみませんか?