葛飾北斎が生まれたすみだの地に誕生した、すみだ北斎美術館。コレクションは大きく3つの柱に分けられ、一つ目は墨田区が収集した作品。
開館記念展で展示された《隅田川両岸景色図巻》などが、これにあたります。
今回の展覧会は、残る2つを紹介する企画。ともに個人コレクターが収集したものです。
まずはピーター・モース氏(1935-1993)のコレクション。ピーター・モース氏は北斎の研究者で、そのコレクションは欧米における北斎の個人収集としては最高・最大の内容と称されています。
前期展では藍一色で摺られた《冨嶽三十六景 甲州石班沢》(初摺は藍摺でした)などを展示。ひとつの版で2種の浮世絵を摺り、切り取る前の「二丁掛」という珍しい作品も紹介されています。
実はピーター・モース氏は、大森貝塚を発見したエドワード・モースの弟の曾孫(ひまご)。エドワード・モースも日本で多くの資料を収集し、2013年には
里帰りコレクション展も開かれています。
1章 ピーター・モースコレクション次いで、楢﨑宗重氏(1904-2001)のコレクション。美術史家の楢﨑氏は戦前から浮世絵雑誌の発行に関わるなど、どちらかといえば趣味の分野だった浮世絵を、美術史の中で学問的に位置づけることに尽力しました。
コレクションは北斎作品の割合こそ多くありませんが、さまざまな日本美術が含まれています。会場では高橋由一、川上冬崖、長澤蘆雪などの名品を紹介。北斎の弟子では双璧とされる蹄斎北馬と魚屋北渓の作品も展示されています。
個人的に楽しめたのは「古今東西浮世絵数寄者総番附」。1938(昭和13)年に発行された浮世絵コレクターの番付で、楢﨑氏は前頭の下の方にランクインしています。良く見ると知った名前も多く、最上位の東の横綱は松方幸次郎、前頭の上位には堂本印象や梅原龍三郎、外国人の中にはフェノロサの名前もありました。
2章 楢﨑宗重コレクションちょうどサントリー美術館でも、
コレクターに焦点を当てた展覧会が開催中。「コレクションはコレクターの人格のあらわれ」とは楢崎氏の言葉ですが、個人が集めた一群にはコレクターの想いが詰まっています。まとまったかたちで美術館に収まるのは、コレクションにも、美術館にも、そして鑑賞する私たちにとっても、非常に幸運な出来事といえます。
展覧会は前後期で展示替え(前期は3月5日まで、後期は3月7日から)。後期展にも、摺師が間違えて別のタイトルを摺ってしまった珍品や、摺りの良い作品のみを厳選した英国の北斎展で図録の表紙を飾った逸品などが紹介されます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年2月2日 ]■すみだ北斎美術館を支えるコレクター に関するツイート