化粧道具をはじめ、身の回りのものを入れる手箱。大切なものを納める箱は、やがて箱そのものに装飾が及び、箱自体が愛玩の対象になっていきました。
展覧会は、冒頭から美しい手箱を堪能してください。第1章「玉なる手箱」には贅を尽くした手箱の数々が。独立ケースで紹介されているものは、ぐるっと回って鑑賞いただけます。
「玉手箱」で連想するのが浦島太郎。物語では時間が封じ込まれてたように、手箱は霊力や呪力とも結び付けられました。第2章「手箱の呪力」では、箱をめぐる不可思議な一面に迫ります。
第1章「玉なる手箱」、第2章「手箱の呪力」第3章は「生活の中の手箱」。ここでは一転して、日常の生活の中で用いられてきた手箱を紹介。室内のどこに、どんな箱が置かれていたのか詳細に記録した絵図は、平安時代の貴族生活の実像を知る上でも貴重な資料です。
第4章は「浮線綾文と王朝の文様」。メインの国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》に見られる「浮線綾文」を軸に、代表的な有識文様が紹介されています。文様は単なるデザインではなく、位階や家格を意味する社会的なコードとしての役割がありました。
第3章「生活の中の手箱」、第4章「浮線綾文と王朝の文様」吹き抜け部ではトピック展示として、近代以降に模造によってつくられた手箱が展示されています。
「模造」と聞くと、かたちを写したレプリカと勘違いしがちですが、ここで紹介されている手箱は、過去の名品から材料・技法を学んでつくられたものばかり。名工から名工への技術の伝承ともいえます。
手箱と縁が深いのが、北条政子。「籬菊螺鈿蒔絵手箱」も政子が奉納したと伝わりますが、明治時代に海難事故で消失。籬菊螺鈿蒔絵手箱図などを参考に復元模造がつくられたと見られます。原品は伊豆沖の海底に眠っているといわれています。
トピック展示「名品手箱の模造と修理」国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》は、ここで登場。鎌倉時代の手箱の名品として名高く、ベースの金地は「沃懸地(いかけじ)」で、金粉を密に蒔いたもの。蒔いた粒子の大小によって様々に光るため、輝きに奥行きが感じられます。この手箱も政子が愛玩したといわれています。
第5章は「神宝と宮廷工芸」。最高の工芸技術でつくられた手箱は「神宝」として奉納されるようになりました。最後の章では名だたる神社に伝わる神宝から、雅やかな服飾工芸品を紹介。中でも熊野速玉大社に伝わる手箱は、内容品である化粧用具も含めて豪華絢爛です。
国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》、第5章「神宝と宮廷工芸」通常は蓋を閉じて展示されている国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》ですが、なんと6月21日(水)~26日(月)には、期間限定で蓋が開けられた状態で展示されます。資料によると、蓋裏には約30種類の草花が研出蒔絵で表現されているとの事。めったに見られない貴重な機会となります。
※作品保護のため、会期中展示替を行います。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年5月30日 ]■神の宝の玉手箱 に関するツイート