美術館の周年記念展といえば「自慢のコレクションを大公開」というスタイルが定番。幅広いコレクションがある横浜美術館だけに、それでも十分な展覧会になると思いますが、今回はさらにひとひねりしました。活躍中のアーティスト4人が参加し、コレクション作品と同じ空間に並べる事で、作品同士の化学反応を狙っています。
会場は大きく2部構成。さらに細かく分かれ、全体では7章構成になります。動線はいつもと逆、入って左側のエスカレーターから上ります。
第Ⅰ部は【LIFE:生命のいとなみ】。冒頭の「こころをうつす」の章に、一人目のアーティストが登場。束芋(1975-)さんの映像作品《あいたいせいじょせい》です。周囲に流されてしまう女性をテーマにした映像。同じ展示室に並ぶコレクションは、日本画を中心に、女性の情念を感じさせる作品がセレクトされました。
束芋さんは、2009年に横浜美術館で個展「束芋:断面の世代」を開催しました。同館での展示は、ちょうど10年ぶりとなります。
「いのちの木」の章には、淺井裕介(1981-)さん。淺井さんはテープや泥などの身近な素材で、大きな空間を飾るような作品を制作します。横浜美術館では、2007年に若手作家支援プログラム「New Artist Picks」で、個展「根っこのカクレンボ」を開催しました。
今回は約2週間かけて、円筒形の展示室の壁面全てに作品を制作。ミロ、エルンスト、シャガールなどによる、植物や動物を主題にした作品が、淺井さんの作品に包まれます。
第Ⅱ部は【WORLD:世界のかたち】。ここも最初の「イメージをつなぐ」の章に、ゲスト・アーティストの今津景(1980-)さんの作品があります。
イメージを集めてコンピューターで繋ぎあわせた上で、油彩画にする今津さん。その制作プロセスは、シュルリアリスムを彷彿させます。展示室には、エルンスト、マン・レイ、マグリット、ダリなど。最奥に展示された、今津さんの大作《Repatriation》から溢れ出ているような構成です。
他の3名と異なり、今津さんは横浜美術館での展示経験は無し。初めての接点が、大きなチャレンジとなります。
「モノからはじまる」の章には、菅木志雄(1944-)さん。「もの派」の代表的作家で、精力的に活躍している菅さんは、20年間に横浜美術館で個展「菅木志雄―スタンス」を開催。展示空間に合わせた、大規模なインスタレーション作品をつくりました。今回は20年ぶりに再展示、あわせて、師といえる斎藤義重らの作品も並びます。
いつもは写真が並ぶ最後の展示室では、横浜美術館の活動のあゆみを、平成の時代背景とともに紹介。横浜美術館が開館した1989年は、ちょうど平成元年。本展の会期中に平成は終わりを迎えます。
横浜美術館は、今年度いっぱいが30周年の記念イヤーです。7月からは「原三溪の美術」、9月からは「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」が開催されます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年4月12日 ]