当館が所蔵する「電燈所 た禰󠄀(ね)コレクション」を中心に、「西浦焼」をご紹介します。
「西浦焼」とは土岐郡多治見町(現多治見市)を中心に、明治初期より三代から五代西浦圓治(にしうらえんじ)のもとで製造されたやきもののことをいいます。なかでも五代西浦圓治が明治30年代から44年にかけて製作した、釉下彩と呼ばれる作品が広く知られています。釉下彩(ゆうかさい)とは、透明釉の下に多彩な色によって絵や文様を施す技法です。釉薬の下で発色するため上絵具などのはっきりとした色合いに比べて柔らかな雰囲気が特徴です。さらに図柄・形状についても、明治後期にヨーロッパで流行したアール・ヌーヴォー様式を採り入れているものが多く、世界的に見ても時代の先端をいく陶磁器でした。「西浦焼」という一つのブランドとして、多くは欧米向けの輸出品として販売されました。
一方「電燈所 た禰󠄀コレクション」とは、明治時代に多治見へ電気をもたらす合資会社「多治見電燈所」加藤乙三郎(初代)の妻・加藤た禰󠄀が蒐集したコレクションのことです。
明治44年、東洋一の製陶工場とまで言われた西浦焼の工場が閉鎖されたとき、た禰󠄀はこうした秀れたものは二度と焼けないと考え、三十点ばかり買い求めました。これが陶器蒐集のはじまりでした。その後、昭和初期に桃山陶の「発掘ブーム」が起こり、東美濃地域から貴重な陶片が大量に持ち出されてしまいます。こうした中、た禰󠄀により窯跡から出土した桃山陶の膨大な陶片が蒐集、保管されたため、散逸することなく地元に残すことができました。そして西浦焼から始まった陶器蒐集は、「電燈所 た禰󠄀コレクション」として実を結ぶこととなります。
本展では当館が収蔵する「電燈所 た禰󠄀コレクション」を中心に、明治時代の美濃を代表するブランドである「西浦焼」の世界をご紹介します。