行事のなかに、井戸(若狭井)から水を汲んで本尊にお供えするという次第があることから「お水取り」と呼ばれますが、仏事としての正確な名称は「修二会」です。旧暦の2月1日~14日に執りおこなわれたので、その名があります。
現在は3月1日から14日にかけておこなわれ、数多くの参詣者を集めています。参詣者にとってのクライマックスは、二月堂の欄干で振られる大きな松明です。この松明は本来、参籠する僧が宿所から二月堂へと上堂する際に足元を照らす灯りなのですが、これが欄干で振られると大きな火の粉が空中に飛び散り、その瞬間、寒空のもと屋外で参拝する人々の歓声がどっと上がります。
しかし、仏事としての「修二会」行法の目的は、火の粉を散らすことでも水を汲むことでもなく、仏の前に自らの罪過を懺悔すること(悔過)です。二月堂の本尊は十一面観音菩薩で、修二会においておこなわれる行法は「十一面悔過」です。
現在、二月堂の内陣には大観音・小観音と呼ばれる大小二体の十一面観音像が、それぞれ厨子に収められ安置されています。2体の観音像はいつの時代からか秘仏とされ、参籠する僧たちであっても拝することはできません。私たちは12世紀にこの小観音像を見た人物が描いた画像によって、その姿を想像するしかありません。
当館では東大寺で修二会がおこなわれるこの時期に合わせ、「お水取り」展を企画いたしました。今回は特に礼堂でおこなわれる作法に注目し、声明にかかわる資料を軸に展示を構成します。どのような空気の中で行法がおこなわれるのか、皆様にそれを体験していただきたいと考えています。