ヤマネは、頭から尻尾の先までで約12センチ前後、一属一種、げっ歯目ヤマネ科のほ乳類です。日本特産種で、本州、四国、九州の山林に生息し、夜行性で、おもに樹上で生活します。冬になると体温を零度近くまで下げて、約6ヵ月間木の洞や地中、枯葉の下で完全に冬眠します。自然写真家の西村豊氏は、1977年初夏に八ヶ岳山中でヤマネに出遭いました。そのボタンのような、黒く大きな澄んだ目に魅了され、以来“森の妖精”ヤマネの姿を探し求めます。そして姿を見ることすら困難なヤマネの撮影に約20年を費やし、そのユーモラスで愛らしいしぐさや食性、子育てのようすなど、ヤマネの生態を生き生きと物語る貴重な撮影に成功しました。1997年、当館は西村氏の写真展「ヤマネ.森に棲むもの」を開催しました。国の天然記念物に指定されているヤマネは、森の減少とともに生息域が脅かされつつありました。それから10年の歳月を経た本年、ヤマネの存在は広く知られるところとなりましたが、環境の変化に伴い、人家に姿をみせたり、人間の仕掛ける殺鼠剤や粘着のネズミ捕りの犠牲となることもしばしばです。ヤマネは、私たち八ヶ岳山麓に生きる者にとって自然の象徴であり、大切な隣人です。八ヶ岳の森を知り尽くした西村氏が近年とらえた「ヤマネ」の姿をみつめ、もう一歩踏み込んだ問題意識をもって、ヤマネの棲む森との共存、自然と共に暮らす人間のルールという核心にふれるときが“今”ではないか.と、考えます。ヤマネを知ること . それは今、温暖化という地球規模の問題に直面する私たちが100年後の子どもたちに豊かな自然を残せるかどうかということと、かけ離れたことではないようです。本展では、当館のコレクションをはじめ未発表の作品を含む約90点を展示します。8月には、西村豊氏によるギャラリートークを行います。夏休みを利用し、小・中学生、教育に携わる多くの方々にもご高覧いただきたいと思います。ヤマネに対する理解をより深め、自然の営みや環境問題についても楽しみながら学べる機会となれば幸いです。