みのりの秋が過ぎると、世界各地でクリスマスの準備が始まります。とくにキリスト教世界の人たちにとって、クリスマス(降誕祭)はイースター(復活祭)と並んで、一年で最も大きな宗教行事のひとつです。12月に入ると、町中にキャンドルの灯りが揺らめき、楽しい人形や玩具が家々の窓辺を飾ります。街のあちこちに意匠をこらしたクリスマスツリーが立てられ、町の中央広場ではクリスマスマーケットが開かれて、華やかに夜を彩ります。これが待降節(=アドベント)と呼ばれる時節で、人々は町全体でクリスマスを祝う雰囲気を盛り上げていきます。
クリスマスは、キリストの誕生を祝う行事に違いありませんが、祝われ方をみると、ヨーロッパが古くから伝えてきてた自然観や世界観がクリスマスの中に、深く溶け合っていることがわかります。
古代ヨーロッパでは、太陽が力を失い、地上の生命力が衰えた冬枯れの季節に、温かい光の復活を願い、新しい年の豊作を祈る儀礼を行っていました。これは冬至祭や収穫祭として今も各地に伝えられていますが、キリスト降誕の祝日は、太陽の復活を祝い、豊作を願う土着の信仰をとり込むことを通して、大きな行事へと発展していったといわれます。クリスマス飾りに登場するキャンドルの灯や光を象徴する造形の美しさ、また麦わらや木の実などの豊かな実りを表現するオーナメント(=装飾)の多様性からも、クリスマスがもつ意味をうかがい知ることが出来ます。
やがて、クリスマスの行事はキリスト教の普及とともに世界各地へと拡がり、それぞれの地の信仰や冬の習俗と結びついて定着すると、アジアでもアフリカでもユニークな造形が花開きました。
恒例となった当館のクリスマス展は、クリスマス飾りを通して世界各地のクリスマス風景を描き、この行事の意味を探る試みです。
昨年、フィンランドのクリスマスマーケットから多数とどけられた「ヒンメリ」と呼ばれる麦わらのオーナメントは今回、初公開です。
世界各地の民族色豊かなクリスマス飾りが一堂に。遠い国々のクリスマスに思いをはせながら、クリスマス行事の奥行きの深さを感じていただければと思います。