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大阪市立美術館「ルーヴル美術館展 肖像芸術 ――人は人をどう表現してきたか」

撮影・文 [エリアレポーター]白川瑞穂 / 2018年9月21日


世界の美術館の代名詞であるルーブル美術館が豊富に所蔵する肖像芸術から名品を選りすぐり、肖像の魅力に迫る展覧会が、東京からの巡回で始まりました。

私たちの生活のすぐそば、学校や会社にある肖像画や、公園の銅像、お札に描かれた偉人たちなど… 人が人を表現する肖像は、もっとも身近で長い歴史を持つ芸術です。

古代には、来世の生を願い故人の姿が描かれました。あるものは写実的に、またあるものは永遠の生を受けるにふさわしく、理想化された姿に。



左;女性の肖像 2世紀後半 エジプト、テーベ(?)出土蝋画/板(シナノキ)高さ33cm 幅20cm(最大)厚み0.2cm(最大) パリ、ルーブル美術館 古代エジプト美術部門 N2733.3 / 右;棺に由来するマスク新王国時代、第18王朝、アメンヘテブ3世の治世(前1391-前1351年)木、黒色・白色の石、青色のガラス高さ18cm 幅17cm 奥行11cm パリ、ルーブル美術館 古代エジプト美術部門 E11647

やがて時代が移ると、絵画は記録、記憶のためのメディアとしての役割を持ちました。

フランス革命でのマラーの暗殺現場を描いた「マラーの死」は衝撃的な描写とともに話題になり、注文が殺到。
作者のダヴィットは多数の類似した作品を工房で製作し、政治的なプロパガンダにも利用された作品のひとつがこの絵です。


マラーの死 ジャック=ルイ・ダヴィッドと工房 1794年頃 油彩/カンヴァス 162×130cm パリ、ルーブル美術館 絵画部門 R.F.1945-2 / (左はフランス王太子、オルレアン公フェルディナン=フィリップ・ド・ブルボン=オルレアン(1810-1842)の墓碑肖像 アンリ・ド・トリケティ(1803-1874) 1843-1844年頃 大理石 高さ35cm 幅33cm 奥行 31.7cm パリ、ルーブル美術館 彫刻部門 R.F.4378)

もうひとつ、肖像芸術が担ってきた役割が権力者の権威の表現です。
クロード・ラメによる彫刻のナポレオン1世は、古代ローマの皇帝に由来する月桂冠、歴代フランス王室ゆかりの白テンの毛皮とビロードのマントを身につける表現の「コード」によって、フランスの正統な君主であることを象徴しています。
原寸より大きく、理想的な姿で皇帝ナポレオンを表しました。


戴冠式の正装のナポレオン1世 クロード・ラメ(1754-1838) 1813年 大理石 高さ210cm 幅103cm 奥行82.3cm パリ、ルーブル美術館 彫刻部門 LP456

まさに権威の頂点に登りつめるナポレオン1世の姿を描いたのがグロの絵画です。

自軍を振り返り、士気を高め勝利に導く若き司令官を疾走感溢れる筆致で描きました。この姿がその後に描かれるナポレオンの手本となり、現代の私たちが思い浮かべるナポレオン像のオリジナルとも言えるでしょう。


アントワーヌ=ジャン・グロ《アルコレ橋のボナパルト (1796年11月17日)》1796年 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Hervé Lewandowski /distributed by AMF-DNPartcom

権力者の姿は、絵画や彫刻などの芸術作品だけでなく、多くの人目にふれる硬貨や装飾品にも描かれ拡散していきました。


「国王の嗅ぎタバコ入れ」のためのミニアチュール48点 マリー=ヴィクトワール・ジャコト(1772-1855) 1818-1836年 硬貨磁器、金鍍金されたブロンズ 各6.9×5.6cm パリ、ルーブル美術館 素描・版画部門 Inv.35602- inv.35649

古今東西の偉人に誰もが共通のイメージが持てるのは、肖像芸術の功績でした。

記録や権力の顕示のために描かれた肖像は、近代のブルジョワ階級の台頭によりモデルの裾野を広げていきました。権威を表現する「コード」を踏襲しつつ、時代や社会の流行の「モード」も反映するようになるのです。


ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ)《女性の肖像》、通称《美しきナーニ》1560年頃 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

今回、27年ぶりの来日を果たしたこの作品は、ティツィアーノ、ティントレットと並ぶ16世紀ヴェネツィア・ルネサンスの三大巨匠の一人、ヴェロネーゼによる作品。
ルーブルが所蔵するルネサンスの肖像画の最高傑作と言われています。

優雅な服飾品の見事な描写によって、ヴェネツィアの名家・ナーニ家の女性を「コード」と「モード」で表現。

さらに、女性の複雑な表情は、観る者に様々な解釈ができる余地を与えています。美しい瞳は何を見つめ、何を思っているのか…
現物と対峙して思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。

その約200年後に描かれたこちらの作品の女性は、同じヨーロッパの上流階級の女性を描きながらも、対照的な「コード」と「モード」を有しています。


エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン《エカチェリーナ・ヴァシリエヴナ・スカヴロンスキー伯爵夫人の肖像》1796年 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

上流階級の婦人であることを表す豪華なドレスではなく、私的で寛いだ服装。
片方の肩は少しずり落ちてさえいて、画家との親密さも窺わせます。
表情や髪型も、気品がありながらリラックスしたもの。
何よりも全てが自然で、モデルの美しさを引き出していることが分かります。

マリー・アントワネットの宮廷画家として名を馳せたルブランは、自ら新しい「コード」と「モード」をつくりあげたことで、フランス革命後に亡命した後にも、ヨーロッパの上流階級の女性たちから絶大な支持を得たのです。

展覧会の終盤には、昨年、話題を呼んだアルチンボンドの作品が紹介されています。


(左)春 ジュゼッペ・アルチンボンド(1526-1593)1573年 油彩/カンヴァス 76×63.5cm パリ、ルーブル美術館 絵画部門 R.F.1964-30 / (右)秋 ジュゼッペ・アルチンボンド(1526-1593)1573年 油彩/カンヴァス 76×63.5cm パリ、ルーブル美術館 絵画部門 R.F.1964-32

16世紀に時の皇帝の贈り物として描かれた肖像画ですが、肖像画であるとともに植物を描いた静物画であり、同時に万物を統治する皇帝の権力を象徴するという多義性を持った側面もあります。

展覧会の最後にアルチンボンドの肖像画で肖像芸術の意味を振り返ることで、また新しい視点からご覧になれることでしょう。

今、盛んに行われているSNSでの自分や人の姿の発信と共有も、最新の肖像芸術の一形態かもしれません。
人はなぜ、人の姿を表現せずにいられないのでしょうか。
記憶と記録のため?姿に表れる本質や自分探しのため?

ルーブルの数々の名品に問いかけながら、平成最後の芸術の秋のひとときを楽しんでみませんか。きっと素敵な答えを教えてくれますよ。




会場大阪市立美術館
開催期間2018年9月22日(土)~2019年1月14日(月・祝)
休館日月曜日(祝休日の場合は開館し、翌火曜日休館。ただし12月25日は開館)、12月28日(金)~1月2日(水)
開館時間9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
所在地大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82
06-4301-7285(大坂市総合コールセンター)
HP : http://www.ytv.co.jp/louvre2018
料金一般 1,600円、高大生 1,200円
展覧会詳細へ 「ルーヴル美術館展 肖像芸術 ――人は人をどう表現してきたか」詳細情報
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白川瑞穂 白川瑞穂
関西在住の会社員です。学生の頃から美術鑑賞が趣味で、関西を中心に、色々なジャンルのミュージアムに出かけています。観た展示を一般人目線でお伝えしていきます。

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