「武蔵野/むさしの」は古来より、詩歌、文学、絵画や工芸などにおいて、重要な題材としてとりあげられてきました。「はてしなくひろがる原野」、「月のうつくしい芒野原」、叶わぬ恋などから「落ちのびるところ」、あるいは「別天地」…指し示す領域やイメージは時代とともに変化をとげてきましたが、「武蔵野」がさまざまな芸術作品に力を与えてきたことは間違いありません。いまもって「武蔵野」は私たちを引きつけ、郷愁とともに眼前に美しい情景を浮かび上がらせます。
その「武蔵野」の名を受け継ぐ武蔵野市。武蔵野市は本年、市制70年の節目を迎えます。そして、武蔵野市と三鷹市にまたがる井の頭恩賜公園は、開園から100年となります。
市制の施行以来、武蔵野市では急速に人口が増加し、上下水道の整備や大通りの開通といった都市開発、文化施設の新増設などが次々におこなわれました。さまざまなできごとのなかで多くの人びとが行き交うことによって、武蔵野市の風景は大きく変貌を遂げてきたのです。「風景」とは、大きく考えれば、そこに有る“場”のみならず、その場を形成する“人”のことであるともいえるでしょう。
節目の年を記念する本展は、歴史的・文化的な背景から「武蔵野市」を展観するものです。武蔵野市を拠点に活動した芸術家たちの姿とその仕事を、武蔵野市所蔵の作品からご紹介します。あわせて、吉祥寺今昔写真館委員会所蔵の、市街や井の頭公園のようすをおさめた貴重な写真を展示いたします。かつての武蔵野市のようすを思い起こすなかで、芸術家たちの息づかいが身近に感じられ、作品の背後にある「風景」も立ちあがってくることでしょう。
会期中には、講演会とギャラリートークも予定。近世の新田開発以降、どのようにして「武蔵野」に村や町が拓かれてきたのか、武蔵野に移り住んだ人びとがどのような足跡をのこしたのかなど、多角的に武蔵野市の全容をたどっていきます。
節目の年、本展がにれまでに見えた風景を振り返りつつ、これから見える風景について考えるきっかけとなりましたら幸いです。