国宝「彦根屏風」は、正式名称を《紙本金地著色風俗図》といい、幕末の頃より彦根藩主井伊家に伝わったことからこの名で呼ばれています。近世初期風俗画の傑作として名高く、多くの研究者によって様々な角度から研究がなされてきましたが、注文主、作者ともに特定されていません。本屏風が描かれたとされる江戸初期には、絵画作品を享受する層は限られており、おそらくは武家や公家などの上級階層や富裕な町衆の注文により、狩野派の絵師が制作したのではないかと考えられています。
この「彦根屏風」には、同時代の類似作品や後世の模写作品が多く伝わっていますが、それらは、屏風の形式か、登場人物を数人抜き出して掛軸に表したものです。この度、半世紀ぶりの公開となる《遊楽人物図》は、現在はパネル仕立ですが、今から50年前に発見された当時は軸装でした。高さ2m以上にも及ぶ大幅であり、「彦根屏風」の類似作品の中で、このように縦長の画面に配置したものは今のところ他に例をみません。
ここでは、この謎に満ちた《遊楽人物図》を、「彦根屏風」と比較しつつ、これが一体どういった意図で描かれたものなのかを探ります。近世初期風俗画をめぐっては、その作者や制作環境について未解明な部分が多く、本展で提示する内容についても仮説の域に留めざるを得ません。《遊楽人物図》の存在とその研究が、「彦根屏風」を含む近世初期風俗画の理解の一助となり、さらなる研究の進展につながることを期待します。この他、収蔵品の中から、春夏秋冬、四季の感じられる日本絵画や、女性風俗を情緒豊かに表現した美人画など約70点を展覧します。主な出品作家は、下村観山、川合玉堂、東山魁夷、片岡球子、青木繁、林武など。
※本展での「彦根屏風」の展示はありません。