1922年(大正11)に東京で生まれた柚木沙弥郎は、当館創設者である柳宗悦(1889-1961)の思想と、芹沢銈介(1895-1984)の作品に啓発されて染色家の道を志します。
自身の制作のほか、女子美術大学では後進の育成に力を注ぎ、当館が主催する日本民藝館展の審査にも長く携わってきました。近年はフランス国立ギメ東洋美術館など国内外で展覧会を開催、今なお旺盛な創作を続けています。
柚木は主軸とする布への染色のほか、ガラス絵、版画、立体、絵本、ポスターなど多様な分野にも積極的に取り組んできました。それは少年のような柚木の好奇心が駆り立てたことではありますが、視点を替えれば、形式化や惰性に陥りやすい工芸という営みの中で、自作を生き生きした境地へ循環させるための推進力だったともいえます。
柚木作品の特質は何といっても、その生命感のある模様と鮮やかな色彩でしょう。柳は「模様の意義を解く事と、美を解く事とは同一の意味がある」としたうえで、「よい模様は直観で捕えられた本質的なものの姿である」「凡ての無駄を取り去って、なくてはならないものが残る時、模様が現れる」と述べています(「模様とは何か」1932年)。
柚木による約70年の制作活動は柳の説く指標を真摯に追うものでもありました。工芸において模様を作る力がますます脆弱化する現代、柚木が生み出す模様と色彩は、私たちの渇きを荒原に湧いた泉のように潤してくれます。本展では柚木の染色に焦点を絞り、作者からの新規寄贈品と、当館の所蔵品を中心に多彩な作品群を紹介します。