色彩は視覚芸術における基本的な構成要素の一つです。古くは数万年前、土や鉱石を用いて洞窟に描かれた壁画にも、複数の色を使い分けて描かれたものがあります。以降、テンペラや油絵具、アクリル絵具など、時代ごとに人々はさまざまな画材を用いて技法を工夫し、豊かな色彩を求めて新たな表現を追求し続けてきました。今日では描画材の進化に加えて写真撮影、印刷など複製技術の発達やそれらを用いた視覚メディアの普及、さらには高解像度ディスプレイなど、さまざまな技術や媒体の開発によって、あらゆる色彩を自由に扱うことが可能になってきました。視覚芸術の一つであるグラフィックデザイン、その中でもとくにポスターにおいては、他者に情報やメッセージを伝達するというその目的ゆえに、人々の視線を集めるため多くの色彩を駆使して華麗に表現されることが少なくありません。現在、ポスターに代表されるカラー印刷物の多くは青・赤・黄・黒(CMYK)の4色の重ね合わせによって色を表現します。4色を細かい大小の網点に置き換え、その大きさや重なり具合によって色の濃淡や階調を描き出すのです。その調整によってまさに無限の色の表現が可能になっています。
ところが技術的には可能であるにもかかわらず、あえて色数を抑えて表現したポスターもしばしぼ作られています。それは必ずしも単なる費用面での理由によるものではなく、発注者やデザイナーの意図により限定された色でシンプルな表現が選ぼれた場合もあります。過剰なほど色彩が氾濫する現代にあっては、その潔さ故かえって目を引く、力強い表現にもなりえるのです。
本展では、CCGA所蔵のDNPグラフィックデザイン・アーカイブコレクションのポスターの中から、少数の選ばれた色を用いて制作された作品を展示し、デザイナーたちが限られた条件の中で最も効果的な表現を探り、思い思いに力をふるった挑戦の数々をご覧いただきます。