永野太造(1922-1990)は、伯父夫妻が経営する茶店・永野鹿鳴荘を戦後に引き継いで3代目となりました。永野鹿鳴荘は奈良国立博物館に隣接し、古美術関係書の出版も手掛けていました。独学で写真を習得した太造は、奈良文化財研究所の草創期に調査へ同行して社寺の文化財を撮影し、傍ら、寺院や仏像の案内書制作、岩波書店から出版された美術書『奈良六大寺大観』や『大和古寺大観』にも携わりました。彼の撮影は1950年代から1990年におよび、現在とは異なる仏像安置の状況が分かる貴重な写真が多数あり、約7千点のガラス乾板は2015年に帝塚山大学(奈良)へ寄贈されてアーカイブ化が進んでいます。
今回の展覧会では、帝塚山大学所蔵の永野鹿鳴荘ガラス乾板から製作したプリント73点(すべてモノクロ)を展示します。東大寺、興福寺、薬師寺、法隆寺、室生寺、飛鳥寺など奈良の寺院をはじめ、神護寺、仁和寺、平等院など京都の寺院、善水寺、慈恩寺など西日本の寺院あわせて40箇寺におわします仏像を、釈迦、阿弥陀、薬師、観音、天部などの尊像別に紹介し、また、慈愛に満ちた菩薩や険しい表情の天部などを迫力のあるクローズアップでご覧いただきます。仏像の全体や細部が分かるように工夫された撮影により、飛鳥時代から鎌倉時代に制作された尊いお姿が浮かび上がります。
撮影やプリントのデジタル化が常識となった現在、ガラス乾板からゼラチンシルバープリントを製作しての展覧会は珍しく、写真の美しさも見どころのひとつです。