ロシア革命からソ連建国まで、政治の激変期に重なっていた芸術運動「ロシア・アバンギャルド」。西側とは違うその独特のデザイン性に魅せられるファンは少なくありません。
本展はこの時期にロシアで作られたエネルギッシュなポスターを3章にわたって紹介する企画です。
まず第1章は「帝政ロシアの黄昏から十月革命まで」。革命政府の赤軍が旧ロシア帝国軍の白軍を撃破した内戦を象徴する、エリ・リシツキーの《赤い楔(くさび)で白を打て》。
明るい画風と裏腹に内容がブラックな「今日のルボーク」は、第一次大戦中の愛国主義プロパガンダとして作られたものです。
第1章「帝政ロシアの黄昏から十月革命まで」第2章は「ネップ(新経済政策)とロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」。展覧会メインといえるこの章に、最多の120点が並びます。
識字率が低い国民を教育するために映画を活用したレーニン。ただ、激増する映画館に国産映画は追いつかず、外国映画とニュース映画で補っていました。展示されている映画ポスターも、約3分の1は輸入映画です。
同じデザインでアラビア語入りの別刷りがあるポスターは、ウズベク・ソヴィエト社会主義共和国で発行されたもの。原版は名高いステンベルク兄弟によるデザインですが、勝手に色を増やし、原版の良さは台無しです。著作権の意識はありませんでした。
第2章「ネップ(新経済政策)とロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」さらに進むと、大きな展示室を埋め尽くすように並ぶポスターは圧巻です。極めて豊かなデザイン性。「ソ連」という言葉のイメージとは、だいぶ異なります。
「戦艦ポチョムキン」は、国内外ではじめて成功を収めたソヴィエト映画です。ポスターは何種類も作られ、会場では3段掛けで紹介されています。
3段掛けの「戦艦ポチョムキン」第3章は「第一次五カ年計画と政治ポスター」。1929年に第一次五カ年計画が採択されると、近代化を進めるために数多くの政治ポスターが作られました。
この章で目立つのは、グスタフ・クルーツィス(1895-1938)が手がけたポスター。高く掲げた手をコラージュしたり、赤い4つの旗を背景にマルクス、エンゲルス、レーニン、スターリンを並べたりと、そのデザインセンスは群を抜いています。
第3章「第一次五カ年計画と政治ポスター」この後、1932年には共産党中央委員会の命により、全ての芸術団体が解散。ポスター芸術もそれまでのような輝きは見られなくなっていきました。
前述のクルーツィスも1938年に逮捕。まもなく処刑されました。
旧東側諸国のデザイン展では、ちょうど
東京国立近代美術館フィルムセンターでも「
チェコの映画ポスター」展が開催中(12月1日まで)。時代的には少し違いますが、あわせてお楽しみください。
なお、本展は2014年9月30日~11月24日、
世田谷美術館に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年10月30日 ]