昨今のゲリラ豪雨は行き過ぎですが、古来四方を海に囲まれ、水資源に恵まれた美しい自然を育んできた日本。豊かな水の景観は画家の創作意欲を刺激し、水を主題にしたさまざまな絵画が描かれてきました。
近世から現代までの画家による水の情景を描いた作品を紹介する本展。会場は奥村土牛の《鳴門》から始まります。
揺れる船から落ちないように、奥様が後ろから着物の帯を持って支えながら鳴門の海をスケッチした土牛のエピソードは、写生を大切にしたこの人らしいエピソードとして伝わります。
会場入口から続いてご紹介したいのは、会場右奥にある六曲二双、横幅15mにも及ぶ巨大な屏風。橋本関雪による《生々流転》です。
館蔵品ですが、あまりにも大きすぎるという事もあって
山種美術館で展示されるのは実に22年ぶり。現在の地に移転してからは初めての展示となります(他館で展示された事はあります)。
昭和15年に完成した建仁寺方丈の襖絵と同趣の主題。荒れ狂う海原を大きな筆さばきで描きました。緻密な動物画でよく知られる関雪の、ちょっと意外な作品です。
橋本関雪《生々流転》展覧会は4章構成です
第1章 波のイメージ
第2章 滝のダイナミズム
第3章 きらめく水面
第4章 雨の情景
「滝のダイナミズム」で紹介されている岩橋英遠《懸泉》は、富士山麓の白糸の滝を描いた作品。岩橋英遠は人物を加えて滝を実景より大きく描き、壮大な風景を強調しています。
岩橋英遠《懸泉》そして滝といえば、やはり千住博。本展出展作家では最多の6点が紹介されています(滝ではない絵もあります)。
上から下に絵具を流して滝を描く手法は、千住博のトレードマーク。遠目には神々しいほどの威厳と静謐さを感じさせますが、近くでは意外なほどエネルギッシュな絵具の跡が見てとれます。
千住博の作品「きらめく水面」では、山元春挙《火口の水》が印象に残ります。春挙は円山応挙から連なる円山四条派の流れを汲む画家ですが、早い時期から写真撮影も行い、自らの作品に活かしていました。
緑が映り込む美しい水面に、2頭の鹿。この絵も鹿を小さく描く事で、景観を雄大に見せています。
山元春挙《火口の水》テーマが「水」ではなく「水の音」なのがポイント。まさに地下の展示室には、涼やかな水の音が広がってきそうな作品ばかりです。この時期恒例のゆかた割引も実施中。大人なら1,000円が200円引きの800円でお楽しみいただけます(着物でもOKです)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年7月22日 ]※会期中、一部展示替を行います。
■水の音 広重から千住博まで に関するツイート