高松塚古墳やキトラ古墳で太陽に金箔、月に銀箔が使われているように、日本の絵画で古くから用いられてきた金と銀。中でも明治以降には多彩な技法を駆使した日本画が次々に作られ、飛躍的な発展をみせました。
本展は平安期の料紙装飾や江戸琳派なども紹介しつつ、近代・現代の作品における金と銀の表現を展観する企画展。会場入口の艶やかな一枚は、大正6年に描かれた松岡映丘《春光春衣》(山種美術館)です。平安後期という時代性を意識した華麗な装飾的表現が目をひきます。
松岡映丘《春光春衣》山種美術館今回の展覧会には、箔装飾技法を研究している東京藝術大学講師の並木秀俊氏が協力。金・銀が使われた作品を展示するだけでなく、その作品でどのような技法が使われているか、サンプルを見せながら解説していきます。
例えば、横山大観による《竹》(山種美術館)は、画面の裏から金箔を貼り付ける「裏箔」を用いた作品。前に置かれたサンプルは、同じ絹本に描かれた竹ですが、裏箔があるものと無いものを並べると、その差は一目瞭然です。
同じく横山大観の《喜撰山》(山種美術館)は、金箋紙(きんせんし:裏に金箔を貼った紙の表面を薄く剥いだもの)に描かれたと想定できる作品。京都の土の赤さを表現するために、大観はこの手法を用いました。サンプルでは厚さが異なる紙を用意。動画では分かりにくいですが、近くで見ると効果の違いが確認できます。
箔や泥の道具や材料も展示 作品は順に横山大観《竹》、横山大観《喜撰山》 いずれも山種美術館山種美術館の看板的な所蔵作品のひとつが、重要文化財の速水御舟《名樹散椿》。ご覧になった事がある方は、背景の金色が、見事なまでに均一になっている事を覚えているかもしれません。一般的に背景を金色にする時は金箔を用いますが、この作品の金地は「撒きつぶし」。金砂子を何度も撒いては擦りつぶす技法で、金箔よりずっと多くの金が必要なため手間も費用もかかります。
絵画で「撒きつぶし」はあまり用いられませんが、御舟は少年時代に蒔絵の手ほどきを受けた事があるため、蒔絵における同様の手法「沃懸地」(いかけじ)を参考にしたのかもしれません。
ここでもサンプルが紹介されており、順に箔押し、金泥、撒きつぶしによる金地。こちらは動画でも、撒きつぶし独特の均質感が分かると思います。
[重要文化財]速水御舟《名樹散椿》山種美術館会場には、戦後から現代の日本画も紹介されています。加山又造のように、新しい手法と古典的な主題を融合させた作家がいる一方で、従来とは異なる捉え方で金や銀を用いる作家もいます。
例えば山本丘人の《真昼の火山》(山種美術館)は、銀箔の上に胡粉を塗ったり、金泥で立木を描いたりと、一面に金銀が使われていますが、描かれた山は荒々しい仕上がり。装飾的な効果からは離れ、自然を力強く描く材料として金や銀を用いています。
戦後から現代の日本画 動画の最後が山本丘人《真昼の火山》山種美術館絵画の表現において、ここまで豊かに金と銀を使うのは日本ならでは。高度な技術と繊細な表現をお楽しみください。
山種美術館は2016年で創立50周年。これを期に、公募形式の美術館賞「
Seed 山種美術館 日本画アワード」が新設されると発表がありました。記念すべき第1回は2016年1月3日~2月22日に作品を公募し、2016年5月に開催される「Seed 山種美術館 日本画アワード2016」展で発表・展示。大賞(1名)は副賞200万円、優秀賞(1名)は副賞100万円です。これからの日本画界を牽引する若手アーティストの応募が期待されます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年9月24日 ]※10月21日(火)から一部の作品が展示替えされます。