15世紀から16世紀にヨーロッパ全土で大流行したヴェネチアン・グラス。その起源については解明されていませんが、1450年ごろに開発された新しいガラス素地「クリスタッロ」がひとつの転機になりました。
当時は無色透明のガラスを作るのが難しかった時代。新しく生まれた革新的な素材の透明感を活かすために、職人たちは次々に新しい工夫を重ね、蓄積された技術が芸術的な造形美に繋がっていったのです。華やかな装飾は上流階級のあこがれの的となり、ヴェネチアン・グラスはヨーロッパ諸国の王侯貴族に瞬く間に広まっていきました。
第2章「流出したヴェネチアン―「ヴェネチア様式」の誕生」
その美しさ故に、ヨーロッパ諸国ではヴェネチアン・グラスの模倣が広まっていきます。技術流出を決定づけたのは、1612年に出版されたアントニオ・ネーリによる書籍「ガラス製造術」。秘密にされていたヴェネチアのガラス技術の詳細が公表されたため、それぞれの国の趣向を反映したガラス製品が製造されるようになりました。ネーデルランド、スペイン、ドイツ…。ヨーロッパ諸国のガラスは「ファソン・ド・ヴニーイズ(ヴェネチア様式)」として、質・量ともに大きく拡大していきます。
第4章「ヴェネチアン再興 ― 19世紀イタリア」
会場は5章構成で、展示総数は計150件。最盛期のヴェネチアン・グラスの紹介から始まり、国外に広まったヴェネチア様式について、ヴェネチアン・グラスと和ガラスの関わり、一時期停滞したヴェネチアのガラス制作の再興、ヴェネチアン・グラスの現代アートへの影響、と続きます。
現代のガラス作家もヴェネチアで制作する人、ヴェネチア伝統の技をアレンジして作品に取り入れる人など、ヴェネチアに関わりのある作家は少なくありません。最終章にはこの展覧会のために制作された作品を含め、現代の作家による新しい作品を展示。現代のガラス造形にも、「ヴェネチア」の活力は脈々と受け継がれているのです。
第5章「今に息づくヴェネチアン ― 現代アートへの影響」
今年開館50周年を迎えるサントリー美術館。同館にとってもガラスのコレクションは重要な分野のひとつで、薩摩切子やガレの作品など、世界有数のガラスコレクションを保有しています。昨年は和ガラス、一昨年は薩摩切子と、ガラス関連の企画展も毎年のように開催。今回も夏の暑さを忘れさせる涼やかな気持ちでご覧いただけます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年8月9日 ]